タクミシネマ        ルル・オン・ザ・ブリッジ

ルル オン ザ ブリッジ     ポール・オースター監督 

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ルル・オン・ザ・ブリッジ [DVD]

 「スモーク」の原作者であるポール・オースターが監督しているので、期待していったが、これがさっぱりでした。
もっとも彼はカンヌの審査員もやっており、本当は期待してはいけなかったのだ。

 サックスフォン奏者であるイジー(ハーベイ・カイテル)が、演奏中に拳銃で撃たれる。
それはまったくの流れ弾で、彼には何の関係もない。
そこから救急車で運ばれる途中で死ぬまでの、短い時間の夢を映画にして見せる。
実際に彼は死ぬのだが回想形式をとらず、実話として展開する。
夢だったことは、観客には最後に知らされる。

 一命を取り留めた彼は、路上で死んでいた人間の鞄から、光る小石を手に入れる。
それと一緒に電話番号の書かれた紙ナプキンがある。
それに電話をしてみると、相手はイジーのファンで女優志望の若い女性セリア(ミラ・ソルヴィーノ)だった。
しかも彼が電話をすると、彼女は偶然にもイジーのCDを聞いているという不思議さ。
イジーは彼女に会いに行って、光る石を見せる。
すると歳の違いも何のその、たちまち二人は恋人になってしまう。
離れられなくなったイジーは、彼女が働くレストランで一緒に働き出す。
しかし仕事中も二人は、互いに目を合わせてうっとり。
セリアにからむ客に、暴力をふるったイジーは首、一緒にセリアも首となる。

 彼女が応募するオーディションを企画していたのが、イジーの前妻ハナ(ジーナ・ガーション)の夫と知り合いと言うから、これまたお手軽である。
セリアをよろしくとイジーが電話を入れると、このオーディションに合格して、彼女は大役を射止める。
撮影に入ったセリアを追って、数日遅れでニューヨークを発つ予定だったイジーのもとへ、石を奪いに正体不明の男たちが現れる。
イジーは監禁されて、セリアに連絡できない。
この男たちの正体は最後まで不明のまま。

 監禁されて尋問を受けるが、彼等はイジーの身の上から現在の状態まで、不思議なことに良く知っている。
石とセリアについては黙秘し続けるが、なぜかセリアに関しては男たちが知ってしまう。
そんなに都合良くなんでも判るなら、石の在処だって判りそうなものであるが、それは判らないことになっている。
男たちがセリアの前に石をとりに現れるが、追いつめられたセリアは、橋の上から川に身投げして死んでしまう。
死体も上がらない。
順調に進んでいた撮影は主役が蒸発したので、中止である。

 この映画がなぜ作られたのか、時代的な必然性が全くない。
それどころか、この映画でポール・オースターは何を言いたかったのかも不明である。
ただ中年男イジーにたくして、ポール・オースターの若い女性にもてたい願望を描いただけである。
まず、光る石を仲立ちにしたとしても、イジーみたいな年寄りとセリアのような若い子が、恋に落ちること自体が不自然である。
年齢を超えた純愛と言うには、二人が恋人になることによってオーディション合格という、多大な利益がもたらされている。
自分勝手に生きてきた男が、不思議な石と少女の情熱によって、生まれ変わるというのも解せない。

 主題的に何の面白みがない映画で、では映像的に面白いかというと、これがまったく駄目である。
平凡な画面構成、説明的なカット割り、のろい展開、オーバーで思わせぶりな演技、まったく良いところがない映画である。
ポール・オースターは「スモーク」や「ブルー・イン・ザ・フェイス」などの面白い脚本を書いたかも知れないが、映画監督は作家とはまた別の才能が必要なのだ。
まず、映像的な美意識が不可欠だし、役者に演技させる能力も必要である。
ヒーローとヒロインであるイジーとセリアは大味な演技だし、他の役者たちも勝手に演技してしまって、全体としてのまとまりに欠けている。

 劇中で監督役を演じたヴァネッサ・レッドグレイヴの存在感がよかったが、アメリカ映画としては、久しぶりの金を返せの映画だった。
1998年アメリカ映画。


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