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この映画を撮りたいという映画製作者たちの気持ちは理解するが、この作り方はやはりルール違反じゃないだろうか。 人智の及ばない力が作用しており、人間はまったく太刀打ちできない。 この設定は良いとしても、やはり最後には種明かしができる程度には、論理的でないと物語として成り立たない。
ある時、テリー(ジュリアン・ムーア)の子供が、飛行機事故で行方不明になった。 9歳のサムは可愛い盛り、彼女はどうしても忘れることができない。 ところが、夫のジム(アンソニー・エドワーズ)は、何とサムはいなかったという。 サムの写真はなくなるし、サムにかんするものは、全て消失していく。 しかも、精神科医のマンス(ゲイリー・シニーズ)は、彼女の記憶はおかしいと言い出す。 彼女の接する全ての人に、子供はいなかったと言われて、テリーは混乱し始める。 ジムとの間も喧嘩状態となり、公園をうろついていた。 ローレンも一緒に飛行機事故に遭っているので、彼女はアッシュも悲しみに打ちひしがれていると思う。 しかし、彼は意外にも子供はいないと答える。 アッシュの家にテリーは押し掛け、子供の存在を否定していた彼に、ローレンの記憶を呼び起こさせる。 拒否していたアッシュも、自分には子供がいたと思い出す。 すると、国家保安庁の捜査官が、2人を追いかけはじめる。 警察より強力な役人たちに、負いかけられる羽目になった2人は、追跡の中をのがれながらサムを探して回る。 記憶だけが現実であり、記憶を消されると、現実すらないものとなってしまう。 こうした設定はいいとしよう。 現実が観念を生み出すのではなく、観念が現実を作るのだというのは、今日の哲学的な主題だから、この映画を撮りたいのは理解する。 しかし、人間の力の及ばない存在が一体何なのか、まったく説明されていないし、記憶の消去は良いとしても、全員の記憶を消去しなければ矛盾が出ざるを得ない。 こうした疑問が山のように残ってしまう。 アッシュとの関係も、子供を取り戻した後はあれではおかしい。 真相を知りそうになった人たちが、突如空中に消えていく中で、彼女だけが抹殺されないのも不思議である。 この映画はつじつま合わせを放棄しているとしか思えない。 他の人たちは簡単に記憶を消去され、彼女だけが記憶を保つという設定はありだとしても、記憶を奪われなかったのが妊娠・出産の記憶だとなっては、もう何をか言わんやである。 妊娠・出産はきわめて動物的な行為で、女性は生まれた子供を取り替えられても、自分の子か否か気がつかない。 子供を記憶の回路に上げるには、まさに観念の処理があるはずで、だからこそ観念が現実を作るということになる。 観念と記憶の関係は、「メメント」をはじめ先鋭的な映画の好む主題になっている。 しかし、この映画は観念の操作において、論理矛盾を起こしている。 記憶の保持に、妊娠・出産といった事実を直結したところで、現実=事実と観念の距離を零にしてしまった。 事実と観念は離れているという前提で、この映画は始まっているにもかかわらず、妊娠という事実が記憶を保ったというのだ。 最初の前提を否定してしまうと、これでは映画自体が成り立たない。 問題としたい主題は理解しつつも、もっと主題を練るべきだったろう。 「シックスス・センス」を越えると、宣伝には書いてあるが、とても比較にならない。 2004年のアメリカ映画 (2005.07.11) |
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