タクミシネマ        フォーガットン

フォーガットン   ジョセフ・ルーベン監督

 この映画を撮りたいという映画製作者たちの気持ちは理解するが、この作り方はやはりルール違反じゃないだろうか。
人智の及ばない力が作用しており、人間はまったく太刀打ちできない。
この設定は良いとしても、やはり最後には種明かしができる程度には、論理的でないと物語として成り立たない。

フォーガットン [DVD]
公式サイトから

 ある時、テリー(ジュリアン・ムーア)の子供が、飛行機事故で行方不明になった。
9歳のサムは可愛い盛り、彼女はどうしても忘れることができない。
ところが、夫のジム(アンソニー・エドワーズ)は、何とサムはいなかったという。
サムの写真はなくなるし、サムにかんするものは、全て消失していく。
しかも、精神科医のマンス(ゲイリー・シニーズ)は、彼女の記憶はおかしいと言い出す。

 彼女の接する全ての人に、子供はいなかったと言われて、テリーは混乱し始める。
ジムとの間も喧嘩状態となり、公園をうろついていた。
そんなとき、サムの友達だったローレンの父親アッシュ(ドミニク・ウェスト)と出会う。
ローレンも一緒に飛行機事故に遭っているので、彼女はアッシュも悲しみに打ちひしがれていると思う。
しかし、彼は意外にも子供はいないと答える。

 アッシュの家にテリーは押し掛け、子供の存在を否定していた彼に、ローレンの記憶を呼び起こさせる。
拒否していたアッシュも、自分には子供がいたと思い出す。
すると、国家保安庁の捜査官が、2人を追いかけはじめる。
警察より強力な役人たちに、負いかけられる羽目になった2人は、追跡の中をのがれながらサムを探して回る。


 記憶だけが現実であり、記憶を消されると、現実すらないものとなってしまう。
こうした設定はいいとしよう。
現実が観念を生み出すのではなく、観念が現実を作るのだというのは、今日の哲学的な主題だから、この映画を撮りたいのは理解する。
しかし、人間の力の及ばない存在が一体何なのか、まったく説明されていないし、記憶の消去は良いとしても、全員の記憶を消去しなければ矛盾が出ざるを得ない。

 事実、最後に子供を取り戻した後、いないと言った夫はどうなったのか、また子供の存在を否定した人たちは、どう対応したのか。
こうした疑問が山のように残ってしまう。
アッシュとの関係も、子供を取り戻した後はあれではおかしい。
真相を知りそうになった人たちが、突如空中に消えていく中で、彼女だけが抹殺されないのも不思議である。
この映画はつじつま合わせを放棄しているとしか思えない。

 他の人たちは簡単に記憶を消去され、彼女だけが記憶を保つという設定はありだとしても、記憶を奪われなかったのが妊娠・出産の記憶だとなっては、もう何をか言わんやである。
妊娠・出産はきわめて動物的な行為で、女性は生まれた子供を取り替えられても、自分の子か否か気がつかない。
子供を記憶の回路に上げるには、まさに観念の処理があるはずで、だからこそ観念が現実を作るということになる。

 今や、現実と観念の間に距離があるのは自明のことで、それは情報社会の常識であろう。
観念と記憶の関係は、「メメント」をはじめ先鋭的な映画の好む主題になっている。
しかし、この映画は観念の操作において、論理矛盾を起こしている。
記憶の保持に、妊娠・出産といった事実を直結したところで、現実=事実と観念の距離を零にしてしまった。

 事実と観念は離れているという前提で、この映画は始まっているにもかかわらず、妊娠という事実が記憶を保ったというのだ。
最初の前提を否定してしまうと、これでは映画自体が成り立たない。
問題としたい主題は理解しつつも、もっと主題を練るべきだったろう。
シックスス・センス」を越えると、宣伝には書いてあるが、とても比較にならない。
2004年のアメリカ映画
(2005.07.11)

TAKUMI シネマ>のおすすめ映画
2009年−私の中のあなたフロスト/ニクソン
2008年−ダーク ナイトバンテージ・ポイント
2007年−告発のときそれでもボクはやってない
2006年−家族の誕生V フォー・ヴァンデッタ
2005年−シリアナ
2004年−アイ、 ロボットヴェラ・ドレイクミリオンダラー ベイビィ
2003年−オールド・ボーイ16歳の合衆国
2002年−エデンより彼方にシカゴしあわせな孤独ホワイト オランダーフォーン・ブース
      マイノリティ リポート
2001年−ゴースト ワールド少林サッカー
2000年−アメリカン サイコ鬼が来た!ガールファイトクイルズ
1999年−アメリカン ビューティ暗い日曜日ツインフォールズアイダホファイト クラブ
      マトリックスマルコヴィッチの穴
1998年−イフ オンリーイースト・ウエストザ トゥルーマン ショーハピネス
1997年−オープン ユア アイズグッド ウィル ハンティングクワトロ ディアス
      チェイシング エイミーフェイクヘンリー・フールラリー フリント
1996年−この森で、天使はバスを降りたジャックバードケージもののけ姫
1995年以前−ゲット ショーティシャインセヴントントンの夏休みミュート ウィットネス
      リーヴィング ラスヴェガス

「タクミ シネマ」のトップに戻る