タクミシネマ        シックス・センス

☆ シックスス センス      M・ナイト・シャマラン監督

 きわめて複雑なストーリーを持ったサスペンス映画で、画面の格調こそ高くはないが、面白い映画である。
精神分析医マルコム(ブルース・ウィリス)が、かつて治療にあった若者に、射殺されるところから映画は始まる。
そして、映画はいきなりその半年後にとぶ。

シックス・センス [DVD]
劇場パンフレットから

 マルコムは、同じような精神障害を持つ少年コール(ハーレイ・ジョエル・オスメント)の治療に当たるが、コールは死者が見えるという超能力を持っていた。
しかも、時々それを口にしたので、まわりの人たちは化け物といって、コールを除け者にしていた。
離婚し単親になっている母親リン(トニ・コレット)も、問題の多いコールには手を焼いており、親子間の愛情が切れがちだった。
死者が見えるコールは、死者を恐れてノイローゼになっていたが、マルコムとの出逢いにより、死者がコールに救いを求めていたことを知らされ、死者との平和な付き合いを知るようになる。

 これだけなら何と言うことのない映画だが、マルコムは冒頭で死んだことになっており、死者となったマルコムと死者が見えるコールとの間で、それから半年間に起こったことだというのが、映画の最後になって種明かしされる。
そう言われると、彼の奥さんアンナ(オリビア・ウィリアムス)の浮気的行動も理解できるし、地下の書斎兼ワイン・セラーへの机でのバリケードも良く理解できる。
このどんでん返しが、非常に効いており、複雑で緻密なストーリー構成とあいまって、映画が終わっても椅子から立ち上がれないほどの衝撃を持っている。

 死者と死者が見える超能力者のやりとりを、平常な人間社会に設定し、その時間を半年ばかりずらせて見せたのだ。
そのため、観客はマルコムが実在の人物だと思いこむ。
マルコムとコールとに感情移入して見てくると、最後にその前提を外されて、大きな衝撃に襲われると言う仕儀になる。
それにしても、アメリカ映画はとんでもない状況に入り込みつつある。
もはや、現実が手応えを失い、観念という世界だけが価値を持つ、そんな設定がこの映画を支えており、大変な時代であることを知らされる。

 この映画は、言葉つまり観念に全幅の信頼をおいており、言葉のやりとりが人間関係を決定付ける。
元来が精神分析というのが言葉を前提にしたもので、肉体的な不具合や障害を言葉によって改善しようとするものである。
今日ではその有効性は必ずしも完全ではなく、医学の世界では、薬物による治療へと主流は移動している。
しかし、論理の世界ではむしろ有効性を増加させている。
コンピューターという機械言語で動くモノが意味を持ち、現実の世界に有効な働きかけをすると判ってから、観念の有効性が飛躍的に高まった。

 コンピューターそれ自体は物体だが、コンピューターを創りだしたのも人間の観念だし、コンピューターの上で走っているソフトやデーターは観念そのものである。
英語や日本語という生の言葉と、機械言語は同じ観念の産物だから、機械言語が意味として通ることは生の言葉の自立でもある。
そうした意味で、この映画は言葉の遊びと言われるかも知れないが、決してそんなことはなく、言葉つまり観念しか信用できなくなった社会での映画なのである。
しかも、論理化できる観念を越えて、シックスス・センスつまり第六感と言うのだ。

 この映画は、インドで生まれアメリカで育ったM・ナイト・シャマランが脚本を書き、彼自身が監督として撮っている。
しかも、29歳という若さで、長編劇場は初めて撮るというのだ。
多くの映画は、脚本と監督は別人で、ストーリー展開や仕掛けは脚本家の分担、画面構成や演技指導は監督の役割となっている。
しかし、この映画は、その緻密な構成、独特の世界像から、脚本家であり監督でもある彼が脚本と監督をやったのだろう。
確かに、ストーリー展開という意味では、それ以外にはなかったのだろうが、それが映画として成功しているかどうかは疑問である。

 コールを演じたハーレイ・ジョエル・オスメントが非常に上手く、とても子供の演技とは思えない。
天才俳優の出現だろう。
それに対して、ブルース・ウィリスの下手さが目立ち、彼が精神科医をつとめるのはミスキャストだと思う。
見終わってブルース・ウィリスがコールとしか会話をしていなかったとか、拳銃で撃たれてからは常に背広姿だったとか、なかなかに見所のある伏線をしいている。

1999年のアメリカ映画。


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