タクミシネマ       ハイド アンド シーク

ハイド アンド シーク    ジョン・ポルソン監督

 怖い映画がはやっているが、この映画も怖かった。
ホラーに属するのだろうが、主題は時代を反映したものだ。
子供と大人の確執で、しかも結論は、大人が間違っていたというものだ。

ハイド・アンド・シーク [DVD]
公式サイトから

 ニューヨークに住む中年の夫婦デビッド(ロバート・デ・ニーロ)とアリソン(エイミー・アーヴィング)には、1人の娘エミリー(ダコタ・ファニング)がいた。
ある日、母親のアリソンが、突然に手首を切って自殺してしまう。
愛する母を失ったショックで、エミリーは心に大きな痛手を負い、心を閉ざしてしまう。

 父親のデビッドは、娘への環境を案じて、郊外の静かな屋敷に引っ越す。
しかし、それは失敗だった。
森に囲まれた大きな家では、次々と奇怪な事件が起きる。
あたかもその事件は、母親を自殺に追い込んだ父親を、エミリーが恨んでの犯行のように見えた。
病的な表情のエメリーが、チャーリーの犯行だと訴えるが、チャーリーなる人間はどこにもいない。

 心理学者のデビッドは、傷心のエメリーが想像上の友達チャーリーを生み出したと考えた。
そして、優しくしかし厳しく彼女を観察し続ける。
隣家の夫婦や、新しくできたデビッドの女友達のエリザベス(エリザベス・シュー)が、彼等の家を訪れるが、事件がまた起きる。
観客は子供の異常心理による犯罪だと思って、画面を見続けるが、それにしてはちょっと変である。


 9歳の女の子が、大人の身体を1人で動かすことができるだろうか。
父親のデビッドの日常生活が、まったく描写されていない。
カウンセラーのキャサリン(ファムケ・ヤンセン)への、エメリーの対応はまったく普通で、少しも異常ではない。
このあたりが不自然である。
こう思えてくるのは、物語も後半にさしかかってからで、中盤までは少女の犯罪だと信じ込まされる。

 結局、浮気をしたアリソンに対して、嫉妬したデビッドがアリソンを殺したのであり、
しかも、殺したことを自分ではまったく自覚していなかった。
そのため映画の展開は、あたかも彼は無関係だったかのように見せる。
シークレト ウィンドウ」のような二重人格が、最後になって明かされる。
その構成に、観客は騙されて、怖い思いをするのである。

 この映画は、子供の異常心理といった、通俗的に信じられている風説にのり、
大人が保護する者、子供は保護される者、という常識を暴いている。
まず、設定自体が観客の常識に依存し、最後にそれをひっくり返してみせる。
我が国では、子供を大人と同じ人間とは見ずに、あくまで子供を劣った存在=保護の対象とみたがる。
そのため、こうした大人が悪者である映画は作られにくい。

 子供の自立がアメリカ映画では、今や最大の主題だとは、本サイトは何度も書いてきた。
女性が自立した後、残されたのは子供であり、
子供も人間として扱おうとする空気が、アメリカ映画にはある。
もちろん子供の自立は、情報社会化が要求しているものであり、不可避の現象なのだ。
しかし、子供の自立に対しては、どう自立させたらいいのか、いまだ正解がない。まさに暗中模索である。

 どんなに賢い子供でも、小さなうちは親がすべてであり、親の生活圏が自動的に子供の世界である。
そして、親の決めることが、子供にとって絶対である。
小さな子供は親に逆らうことはできない。
この少女の年齢くらいでは、自活できないから、どうしても保護者が必要である。
にもかかわらず、子供は大人と同じ人格である。
そのあたりの子供の限界が、この映画ではよく描かれている。
子供の自立は本当に難しい。


 怖い映画だったが、映画は制作費の多寡で決まらない。
そう思わせるに最適の映画である。
主人公こそロバート・デ・ニーロが演じているが、他には有名な役者が出ているわけではない。
物も壊れず、巨大なセットが組まれたわけでもない。
大胆なベッドシーンがあったわけでもない。
にもかかわらず、見るに耐える映画ができる。

 映画製作とは時代を見る目、そしてそれを構成してくる脚本力だと、つくづく思う。
絶世の美人が、不美人を演じた「モンスター」などを振り返る時、
それを支えるのは、なんと言ってもシャープな主題に尽きる。
2005年のアメリカ映画   (2005.05.05)

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