タクミシネマ          五線譜のラブレター

五線譜のラブレター   アーウィン・ウィンクラー監督

 ゲイだった作曲家コール・ポーター(ケビン・クライン)の伝記映画である。
今なら彼も結婚などしなかったろう。
1920年代は、ゲイがまだ市民権を得ていなかったので、結婚といった形をとらざるを得なかった。
しかし、コール・ポーターを選んでくれた女性リンダ(アシュレイ・ジャッド)は、素晴らしいほどに彼の才能を愛してくれた。

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劇場パンフレットから

 パリでの出会い、ベニスでの新婚生活、ニューヨークへの渡米、そしてハリウッドへの移住と、彼らには栄光の日々が続いた。
男相手に浮気を重ねるコール・ポーターにたいして、何とかプライドを保つリンダ。
相手が女性なら嫉妬もしよう。
しかし、相手は男性である。
内心穏やかではないとは思うが、男性相手でも心の平静を保つのは、やはり大変だったろう。

 リンダは彼の才能に惚れ込んだのだ。
素人作曲家だったコール・ポーターに、何とかして自信をつけさせようと、アメリカから作曲家のアーヴィング・バーリン(キース・アレン)を招く。
ポーターの才能に感動したバーリンは、ミュージカルの仕事をポーターに紹介する。
「自信がない」と戸惑うコール・ポーターを、リンダは動かすことに成功する。
この映画は女性が体を張って、男の才能を磨き上げる物語である。


 物語としてはそれほど見るべきものはない。
この映画で楽しむべきは、何と言っても音楽だろう。
ケビン・クラインが歌うのはご愛敬だとしても、次々に登場する歌手たちの上手いこと。
アラニス・モリセットは独特の声を聞かせてくれる。
そして、ゴンドラの上で歌うレマーの、素晴らしく伸びのあるい歌声。
これだけでも、この映画を見て損はない。

 ミュージカルはやっぱりアメリカのものだ。
ハリウッドのスタジオでのダンスなど、足が自然に動き出してしまうようだ。
ミュージカルのリズムが、ほんとうに身に付いている。
実に楽しげである。
かる〜く音に乗ればいい、難しいことは考えない。
見ているこちらも楽しくなる。
オペラや歌舞伎などに比べれば、歴史は浅いかも知れないが、楽しい音楽である。
いまやミュージカルはアメリカの立派な文化である。
アメリカ以外でこんなに楽しいミュージカルは聞けない。

 毎度のことながら、メイキャップが上手い。
コール・ポーターの生涯を、ケビン・クラインが見事なメイキャップで演じる。
それにしても、美しかったアシュレイ・ジャッドが、容色の衰えは隠せず、寂しいものがある。
ツイステッド」では、辛うじて美しさを保っていたが、強い陽光の当たる場面では、美人を張るのはもう無理である。
白人美人の寿命は、ほんとうに短い。

 ユニセックス化しつつある現代と違って、 1920年代は、まだ男が男であることを許され、女が女を売っても許された時代だった。
男は強く、女はか弱かった。
男からの保護を、女は上手く引き出した。
ファッションもダンディがとおったし、粋が粋で通用した。
現代ではストリート・ファッションが隆盛だが、50年後に現代はどう評価されるのだろうか。 


 2004年アメリカ、イギリス映画
(2004.12.19)

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