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みんな誰かの愛しい人   アニエス・ジャウイ監督

 もうフランス映画は見に行かない。
と言っていながら、また見に行って、やっぱりつまらなかった、と臍をかんでいる。
有名人の子供に生まれてしまった、コンプレックスを描いた映画で、それなりに言いたいことはある。
しかし、日常をそのまま映像化されても、観客は画面に没入できない。
日常を物語として、再構成する作業が不可欠である。
みんな誰かの愛しい人 [DVD]
劇場パンフレットから

 20歳になるロリータ(マルリー・ベリ)は、歌手になろうとして稽古中。
音楽家になるには、すでに歳がいっている。
音楽の先生シルヴィア(アニエス・ジャウィ)は、彼女には才能がないと見て、実に冷たい対応をする。
しかし、ロリータが有名作家カサール(ジャン=ピエール・バクリ)の娘だと知って、手のひらを返したように厚遇するようになる。

 シルヴィアはカサールのファンで、彼に会えるかも知れないので、手のひらを返したのだ。
それに彼女の旦那も作家で、今度3冊目をだすが、カサールほど有名ではない。
カサールは何かと便利な人物に見えた。フランスは階級意識が残るせいか、コネがものを言うらしい。
そういえば、この映画でもヒーローを演じているのは、旦那のジャン=ピエール・バクリである。


 ロリータに言い寄る男の子たちは、みな父親目当てだとロリータは考えている。
偉大な父親の存在が、嬉しくもあり悲しくもある。
となれば映画の展開は想像がつく。
ロリータと父親との確執を交えながら、映画は予想されたように進んでいく。
みな父親目当てだと思っていたが、彼女の予想に反してセバスチアンだけは違ったと、最後も予想したような終わり方である。

 音楽教師シルヴィアを、演じているアニエス・ジャウィが、監督を務めている。
この映画自体についてはあまり言うことはないが、彼女は歳をとってきたので、俳優としてのオファーが全くなくなってしまったのだという。
そこで監督業に転じて、自作自演となったらしい。
前作の「ムッシュ・カステラの恋」はウィットに富んだできだったが、作家として主題のない映画作りは長続きしない。


 「モンスター」も女性監督が撮っているが、こちらは主張を持っているので、映画としての衝撃度が違う。
ジャヴィ監督は今後も、フランス的な軽い物語を撮っていくのだろうが、長い人生には今のまま制作姿勢でもつだろうか。
ジャヴィ監督は歳をとったと言っても、1964年生まれだからまだ40歳である。
加齢によってオファーが来なくなったと言うが、表現すべき何かがないのではないだろうか。

 映画において、俳優は監督の表現素材に過ぎないかもしれない。
映画はしょせん監督のものだ。前後を逆にして撮影もするから、俳優は完成作品がどんなものか、判らないままに演技をしている。
そうはいっても、最近のアメリカ人俳優たちは、自分の出演作品には極めて神経質である。
自分の考えに従って、自分の主張に従って、出演作品を選んでいるように感じる。

 映画市場の小さなフランスでは、アメリカ人俳優のような生き方は、無理なのかも知れない。
アメリ」にしても、この映画にしても、小さな日常を慎ましく描く、そんな映画がフランスには多い。
身内に出演させて簡単に映画を撮っていると、小市民的なこじんまりとした映画ばかりになる。
そのうえ、フランスでは男女間の繋がりが、そのまま公的な世界にも影響しやすい。

 この映画も、監督と主演男優は、ベッドを共にしている。
今や2人は別れたらしいので、次作からはバクリは登場しなくなるだろう。
表現の世界が、個人的な人間関係に拘束されるのは公平ではない。
アメリカでもスーザン・サランドンとティム・ロビンズのような関係もあるが、全体的にアメリカの映画製作のほうが人間関係が開放的に感じる。


 どんな男女がベッドに入ろうと、もちろん構いはしない。
蓼食う虫も好きずきだから、男女の仲については多言を要さない。
しかし、個人的な関係と、職業と言った公的なものが絡む世界は、やはり区別して欲しい。
ベッドでの相手をしなければ、役がもらえないと言ったことは、先進的な映画作りには大きな障害である。
女性監督も台頭する現在、ますます男女関係と公的な世界が、混同されそうな気がする。

 職場の同僚同士の不倫が、仕事に影響をあたえるように、表現の世界も男女関係が影響を与える。
同僚間の不倫が露見すると、良い影響をもたらさないことが多い。
もともと男女間の論理と、表現や職業上の論理は別なので、両者を混同するのは無理なのである。
人間関係において、もっと開放的な創作姿勢であるべきだろう。
2004年フランス映画
(2004.11.12)

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