タクミシネマ         アメリ

アメリ    ジャン=ピエール・ジュネ監督

 東京では二館のみの上映とはいえ、若い女性たちに大人気で、平日だというのに時間前から長蛇の列である。
「デリカテッセン」や「ロスト・チュウドレン」などと同様、 バターを食べる人特有のこってりした色調の画面に、ややエキセントリックな女性アメリ(オドレイ・トトゥ)の物語が、丁寧に展開される。
アメリ [DVD]
前宣伝のビラから


 引っ込み思案の元軍医と神経質な母親のもとで、アメリは成長する。
彼女は学校へ行かずに、母親だけから教育を受けたので、社会性が育たず、人間関係がうまく作れなかった。
しかし成人すると、田舎から出てパリに一人で住む。
アパートに暮らして、モンマルトルの喫茶店で働いていた。

 話としてはたわいないが、ユニークな人柄とおもしろいエピソードでつないでくれる。
同じアパートに住む人たちとの交流やら、職場での人間関係など、心温まる話が続く。
前半は彼女の身辺エピソードをつないで、ていねいに彼女の人格描写をする。


 彼女の趣味は、周りの人たちの幸せを演出することである。
父親の人形に世界旅行させて、友人に世界各地からポラロイド写真を送ってもらう。
それがとうとう父親を旅行に引っぱり出すことになる。
また、別れた男への思いに生きる女性に、恋文をでっち上げて、彼女を慰めたりする。

 ある時、ニレ(マチュ−・カソヴィッツ)という青年に邂逅し、とつぜん恋に陥る。
後半は彼女の恋物語だが、これが単純にはいかず、いかにもフランス人好みの曲がり方である。
ニレも彼女同様に屈折した青年で、今は写真のコレクションに熱中している。
しかも、彼の生家はストリップ小屋という設定である。

 彼は証明写真のスタンドで、捨てられた写真を拾い集めているのだ。
多くはびりびりに破かれているので、それを丹念に修復してスクラップブックに、何冊も集めている。
最後に二人は結ばれるのだが、女性は待つ存在だった時代とは違って、彼女のほうから積極的にアプローチする。
そうでありながら、彼女はなかなか最後のつめができない。
同じアパートに住む老画家の後押しで、やっと二人は仲良くなる。


 とりたてて大きな物語が展開するわけでもなく、大きな仕掛けがあるのでもない。
パリに住むちょっと変わった女の子の日常を描いた映画である。
ブリジット・ジョーンズの日記」など、この手の映画が人気となるのは、主人公に思い入れができるからだろう。
平凡な日々を生きる女性たちと、スクリーン上で動く女性とが、同じような日常を生きている。
そんな共感が、人気をうむのだろう。

 かつての映画は、絶世の美女や美男を主人公にして、手の届かない夢物語だったのに比べ、今日の映画は実に庶民的である。
普通の庶民の女性が、特別に美人でもなく、普通に登場する。
だから誰にも大人気というわけではない。
ある階層の、限られたファンにだけ、熱狂的に受けるのだ。
今やスクリーン上の人間は、自分と等身大の人生を生きていると、錯覚させてくれる。

 映画が夢を売った時代には、美人が必要だった。
満たされない日常を、スクリーンで解消した。
それは一時の夢だと知っていても、虚構の世界に遊んだのである。
今日のほうが罪は深いとも言える。
虚構と感じさせないような身近な映画を見せ、観客に甘い錯覚を売っている。
虚実の境界が不明になった時代の、欲求不満を生み出す源かもしれない。


 こってりとした色調で、エキゾチックにパリを描く。
ここには現実の世界に存在する、困難なことはまったくない。
たとえば、ちょっと意地悪な人はいても、社会的な悪は存在しないし、パリにはたくさんいる黒人もアラブ人も登場しない。
白人の純粋培養された閉じた世界があるだけである。
だから古い感覚のフランス人は、安心してこの映画に浸れるのだろう。

 女性の日常を描く映画が多いことは、女性の社会進出がそれほど進んではいない証拠でもある。
だからこれは、ヨーロッパで作られた映画である。
平凡な展開ではあっても、女性を主人公とする映画は、これからも作られるだろう。
女性に脚光があたるという意味ではいいのだろうが、男性映画が対物・対社会の展開が多いのに対して、女性映画が日常を追うというのでは、やはり寂しい。

 アメリカではこの段階は、すでに通り過ぎている。
アメリカでは女性が社会進出してしまったので、女性がもっと孤独になっている。
そのため心的な状況は、ほとんど男性と同じで、個人という単位で物語が展開している。
この監督は、「エイリアン4」をハリウッドで撮っているが、この映画はフランス的である。
映画は本当に作られた国を表すものだ。
2001年のフランス映画

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