タクミシネマ       ヴィレッジ

ヴィレッジ   ナイト・シャマラン監督

 サスペンス映画は前評判どおりとは限らない。
多分、怖さを感じる部分が、各自で違うせいだろう。
シックスス・センス」で一躍脚光を浴びたこの監督も、次々に秀作を撮らなければならず、充電期は大変な日々だろう。
脚本から自分で考えるこの監督には、もっと長い時間をかけて構想を練って欲しい。
ヴィレッジ [DVD]
公式サイトから

 犯罪で肉親を殺された人たちが、現代社会を逃れて前近代に暮らししている。
最初は、シェーカー教の人たちかと思ったが、やがて信仰に生きているのではないことが判る。
なぜこの人たちが19世紀のような生活をしているのか、理解に苦しむまま物語は進行する。
結局この映画の判りにくさは、特異な生活をしている人たちの必然性を、観客に理解させることに失敗している点にある。

 犯罪の多発化は、人間の原罪ともいうべきもので、平和を求めて現代社会から隔絶して暮らす。
これが犯罪被害者たちの決意だった。
それを生かすために、とある丘陵地帯の一角に数十の人たちが、集落を作って暮らしていた。
平和な日々が続いていたが、問題は現代社会から逃げてきたことを、わずか10人程度の長老たちしか知らずに、若者たちには何も知らせていないことだった。


 村を取り囲む森には、恐怖の生き物が住んでおり、村人は森に入ることは出来ない。
森に入れば、彼らの生活権を侵したことになり、死の復讐があると脅して、若者たちをマインドコントロールをして、村からの脱出を阻止していた。
若者たちが外部の社会に憧れて、村から脱出しないように、恐怖の支配を行っていた。
若者たちは素直で、森の怪物を信じていたので、村から脱走する者はいなかった。

 ルシアス(ホアキン・フェニックス)がアイヴィ(ブライス・ダラス・ハワード)と結ばれることに嫉妬したノア(エイドリアン・ブロディ)が、ルシアスをナイフで刺して重傷を負わせる。
感染症が進み、抗生物質がなければ助からない状況になる。
ここで長老たちが禁を破る。
そして、薬をとりに村の外へ、アイヴィを派遣することにする。
しかし、アイヴィは村と町の関係を知らず、森の中を恐怖心に苛まれながら進む。


 途中、彼女はさまざまな恐怖を体験する。
嫉妬に狂ったノアが、森の怪物に変装してアイヴィを追いかける。
もちろんアイヴィが殺されてしまえば、物語はここで終わってしまう。
幸いなことにアイヴィは無事に薬を持ち帰り、ルシアスは一命を取りとめる。
そして、村の生活はこのまま続くことになる。
しかし、この映画は物語の設定自体が無理である。 

 主題が現代社会批判であることは理解するが、村人たちの孤立した生活が必然性を欠いているので、物語にのめり込むことが出来ない。
また、数十人の村人が、集まって食事をするシーンが何度も登場するが、それぞれのシーンがなぜ集まって食事をしているのか、理解不能である。
いくら特殊な信仰に凝っていても、屋外での会食には理由があるはずである。

 村人の全体性を強調するためか、個人個人の生活が描写されていないので、生活実感が浮き上がってこない。
そのため村人たちの生活が、具体的な手応えを持ってこない。
まったくの抽象的な生活となっており、村の生活自身が空想に思えてくる。
そのうえ、盲目のアイヴィが森を抜けて、町まで往復するとなると、もう嘘だろうと言いたくなる。


 全体設定を隠しておいて、最後にばらすという手法は、サスペンスの常套でもあるが、やはり無謀な設定では無理である。
危険の多い現代社会を、前近代にたって批判する構造自体が、後ろ向きであるから、よほど状況設定を上手くしないと説得力に欠ける。
映像美で見せるという監督ではないので、物語をきちんと作り込まないと、「シックスス・センス」でファンになった観客も、やがて飽きてしまうだろう。
 2004年アメリカ映画
(2004.09.17)

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