タクミシネマ        レディ キラー

 レディ キラー    コーエン兄弟監督

 1955年のイギリス映画「マダムと泥棒」のリメイクだという。
ちょっと外れたユーモアがあって、のんびりとしたサスペンスを楽しむことができる。
のんびりとしたサスペンスというのは、語彙矛盾かもしれないが、コーエン兄弟ならではの風合いの映画だろう。
劇場パンフレットから

 舞台は南部ミシシッピー川沿いの小さな街である。
大学教授を名乗るゴースウェイト・ヒギンソン・ドア(トム・ハンクス)が、1人暮らしのマンソン婦人(イルマ・P・ホール)のところへ下宿する。
身なり正しい教授は、実は泥棒である。
窃盗目的に好都合だから、マンソン婦人の家に下宿したのだった。
彼は仲間を募って、近くにあるカジノまでトンネルを掘って、カジノの売り上げを頂こうという計画である。


 新聞広告で集めた仲間が、これまたふるっている。
切れやすい黒人(マーロン・ウェイアンズ)や、ちょっと足りないアメラグの選手(ライアン・ハースト)、将軍と呼ばれるアジア人(ツィ・マー)、それに爆破のプロ(J・K・シモンズ)と、全員が何だかおかしな連中である。
この窃盗団は、「ミッション インポッシブル」に登場するような、優れたプロの集団ではない。

 トム・ハンクスが演じる教授の弁舌のさわやかさと、窃盗を実行する連中のちぐはぐさが、いかにもおかしい。
しかし、古い原作であるからだけではなく、知的指導者と現業労働者とが、画然と別れている西洋諸国では、この映画のおかしさが良く理解されるかもしれないが、我が国では教授の嫌味がちょっと鼻につく。
我が国では、5人のキャラクターに必然性が感じられない。


 コーエン兄弟は、我が国でも多くのファンをもち、かく言う当サイトも彼らのファンなのだが、この映画のような現地密着的な映画には、心底から楽しめないのも事実である。
ファーゴ」のように一般化された物語なら、外国人にも充分に楽しめるが、この映画はイギリスやアメリカの現実に負いすぎており、外国人である我々にはなかなか想像が届かない。

 シティホールというの名の建物が登場する。
この建物には、警官が2人いるだけ。
しかも、この2人も昼寝ばかりしているという平和さである。
この警察署の建物から映画は始まるのだが、矩形の建物を正面から撮った画面の緊張感が良い。
そこに歳のいったマンソン婦人が、黒人特有の歩き方で登場するくだりは、いかにも南部的なシーンである。

 何度も登場するゴスペルの力には圧倒されるし、ゴスペルが今日のラップなどの基礎になっていることがよく判る。
しかも、マンソン婦人は黒人でありながら、ラップが嫌いで敬虔なクリスチャンである。
南部の黒人たちは、北部の黒人と違って、木訥というか、素朴な感じが残っている。


 この映画は特別な主題を云々するものではなく、ちょっとずれたユーモアあふれる物語を、イギリス的なセンスで楽しむものだろう。
途中で教授が吟ずる詩は、なかなかに良い雰囲気だし、声になった言葉を楽しむのが伝わってくる。
アメリカの良心といったマンソン婦人にたいして、気のいい犯罪者たちが繰り広げるおとぎ話といった感じである。
難しいことを言わずに楽しむ、知的な映画であろう。
2004年アメリカ映画
(2004.05.28)

TAKUMI シネマ>のおすすめ映画
2009年−私の中のあなたフロスト/ニクソン
2008年−ダーク ナイトバンテージ・ポイント
2007年−告発のときそれでもボクはやってない
2006年−家族の誕生V フォー・ヴァンデッタ
2005年−シリアナ
2004年−アイ、 ロボットヴェラ・ドレイクミリオンダラー ベイビィ
2003年−オールド・ボーイ16歳の合衆国
2002年−エデンより彼方にシカゴしあわせな孤独ホワイト オランダーフォーン・ブース
      マイノリティ リポート
2001年−ゴースト ワールド少林サッカー
2000年−アメリカン サイコ鬼が来た!ガールファイトクイルズ
1999年−アメリカン ビューティ暗い日曜日ツインフォールズアイダホファイト クラブ
      マトリックスマルコヴィッチの穴
1998年−イフ オンリーイースト・ウエストザ トゥルーマン ショーハピネス
1997年−オープン ユア アイズグッド ウィル ハンティングクワトロ ディアス
      チェイシング エイミーフェイクヘンリー・フールラリー フリント
1996年−この森で、天使はバスを降りたジャックバードケージもののけ姫
1995年以前−ゲット ショーティシャインセヴントントンの夏休みミュート ウィットネス
      リーヴィング ラスヴェガス

「タクミ シネマ」のトップに戻る