タクミシネマ        ハイ クライム

ハイ クライム   カール・フランクリン監督

 軍事法廷を舞台にした裁判劇である。
1988年エル・サルバドルでの作戦中、アメリカ人旅行者をアメリカ軍が誤って殺してしまった。
その責任を、ゲリラになすりつけるべく、ある作戦が敢行された。
それは小さな村をおそって、犯人のゲリラをでっち上げることだった。
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 映画は幸せに暮らす2人の夫婦から始まる。
クレア(アシュレー・ジャド)は有能な弁護士で、夫のトム(ジム・カヴィーゼル)は建設会社を経営している。
2人は幸福そのもので、クレアは妊娠していた。
クリスマスの晩、突然に夫がFBIに逮捕される。
それによって、トムの本名はロナルド・チャップマンだと知れる。
かつて海兵隊の特殊工作員だった彼は、エル・サルバドルで非戦闘員9人を殺害し、12年間も逃亡を続けていた、という容疑だった。

 クレアは夫の無実を信じ、軍事法廷に立つことを決意した。
しかし、軍事法廷と一般の裁判は違う。
彼女はかつて女性問題で軍を追われた、弁護士チャーリー・グライムス(モーガン・フリーマン)に援助を依頼する。
裁判の進行につれて、軍のやらせが暴かれたり、事件の真相が明らかになる。
クレアが当時の上官だったマークス准将に、事件の真相を公表すると迫ると、事件自体が訴訟取り消しになる。

 夫の無実を勝ち取ったが、じつは夫は9人の殺害を実行しており、同僚の兵士2人を殺した真犯人だった、というどんでん返しが最後である。
最近のサスペンス映画は、単純には終わらないので、このどんでん返しは良いのだが、ミスキャストから最初から結末が見えてしまっている。


 主人公のクレアをアシュレー・ジャドが演じ、パートナーの弁護士をモーガン・フリーマンが演じている。
これはいい。
しかし、夫を演じるのがジム・カヴィーゼルでは、役者の格が違いすぎる。
地味で演技の堅いジム・カヴィーゼルでは、最初から彼が犯人だと言っているようなものだ。
どんでん返しを効かせるためには、夫役には明るい正義漢を起用しなければ驚きはない。

 美人で売ったアシュレー・ジャドのための映画である。
だから、彼女を主人公にもってくるのは当然だろうが、その相方には彼女以上の実力俳優が必要である。
夫役に出演料をケチったところに、この映画の失敗の原因がある。
しかし、それにしても、アシュレー・ジャドの容色が衰えた。
一時は、シャーリーズ・セロンとなんらんで現代では数少ない美人女優だったが、年齢とダイエットのしすぎからか、すっかり美人度が落ちてしまった。


 モーガン・フリーマンは芸域が広く、演技力もあるので、この役も無難にこなしていた。
美人で売った女優さんは美人度が落ちると無惨なものだ。
加齢によって肌の艶がなくなったのは仕方ないとしても、痩せすぎたので胸のふくらみも落ちたし、下半身の大きさばかりが目立ってしまう。
演技も決して上手くはないので、今後の出演映画には困るのではないだろうか。
年齢や性別に関係なく、役者はやはり演技の力が大切だと確認する。


 「母の眠り」を撮っているカール・フランクリン監督だが、この映画ではやや荒さが目立った。
クレアの有能さを示すための冒頭の裁判が唐突だったし、クレアの妹が派手に登場するも、話の展開にからんでこない。
主要な登場人物は、きちんとからんでこないと据わりが悪く、話が引き締まらない。
そのうえ、軍から出た弁護の兵と、妹ができていくのは良いとしても、簡単に過ぎる。
そして、電話機の盗聴や最後にトムが射殺されるシーンなど、偶然の重なりによるご都合主義な話の進め方である。

 最後には、クレアとチャーリーの共同事務所へと落ち着いては、まるでアシュレー・ジャドとモーガン・フリーマンのハッピーエンドである。
強い女と好々爺という組み合わせかも知れないが、あまり気の利いた結末ではない。
夫の正体を知って、自己嫌悪に陥らないはずがないから、夫の正体を知らずに結婚した女弁護士のドジとともに、脚本を根本的に練り直すべきだったろう。

2002年のアメリカ映画   

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