タクミシネマ  M:I-2(ミッション インポッシブル−2)

ミッション・インポッシブル−2     ジョン・ウー監督

 前作から監督も撮影者も替わり、新たな装いで出現した。
主演のイーサン・ハントを、トム・クルーズが演じることだけは、さすがに変わらない。
しかし、筋といい仕掛けといい、映画は最悪の出来である。

TAKUMI−アマゾンで購入する
M:I-2(ミッション:インポッシブル2) [DVD]

 主題は、凶悪な病原菌をばらまき、それを退治するワクチンを独占することによって、巨額の富を得ようとする悪人と、それを阻止するイーさんとの闘争である。
改良が新たな悪を生みだす近代人間社会への皮肉でもあるのかもしれないが、そんな視点はまったく感じられない。
ただ悪をばらまき、マッチポンプ的にワクチンを売るという単純な話である。
その悪人(ダグレイ・スコット)の元恋人(サンディ・ニュートン)を、トム・クルーズが自分の恋人にし、彼女とともに悪人を追いかけるという展開である。

 コンピューターを駆使するのはこの手の映画の定型で、特別に見るべきものはない。
むしろこの映画は、派手なカーアクションや格闘シーンが見せ物なのだろう。
しかし、そうした見せ物を支える人物設定が、あまりにも古い。
元恋人は世界を股に掛けた凄腕の女盗賊という設定だが、映画の冒頭で何の根拠もなくたちまちトム・クルーズとベット・イン。
その後は、彼にすがり彼を頼り、彼の手足となって働く。
女盗賊として自立した生活は、何処へ行ってしまったのだろうか。
フェイス・オフ」では、なかなかの腕前をみせたジョン・ウー監督は、新しい時代の男女関係がまったく判っていない。
途上国監督の限界だろう。

 男女が中心人になって展開するスパイ・アクション映画で、主人公となる男女のつながりが根拠不明だと、物語そのものが成り立たない。
あとは部分部分の見せ場を繋ぐだけになってしまう。

しかし、それもきちんとした筋が通っていないので、見せ場となるべき各シーンがバラバラである。
格闘のシーンは格闘のシーンでだけ、カーチェイスのシーンはカーチェイスのシーンでだけ、オートバイシーンはそれだけでといった具合に孤立しており、それぞれの繋がりがない。
娯楽映画だと言ってしまえばそれまでだが、良くできた娯楽映画であるためには、それなりのリアリティや説得力が必要である。

 前作では、他人になりすました顔の皮膚を剥ぐのか効果的に使われ、それが思いがけないどんでん返しに上手く使われていた。
しかし、今回はそれが多用されすぎた。
そのため、すでに手の内がばれてしまっており、すっかり面白味に欠けていた。
映画展開の先が見えているようでは、監督の想像力は薄弱だと言わざるを得ず、つまらない映画になってしまうことは明白である。
また、舗装道路上ではノーマルタイヤだったはずのオートバイが、追跡の途中でダートに入ると、いつの間にかスリックタイヤに変わっていたり、「そんな!」というシーンが多すぎる。

 「ブロークン・アロー」「フェイス・オフ」と男性を描いてきたジョン・ウー監督は、前作のヒットでプロデューサーへの発言力を強めた結果、かえって彼の後進的な地が出てしまったようだ。
男性間の信頼や人間性への普遍的な価値は、どんな社会でもそんなに変わるものではない。
優れた人間は優れていると評価されるし、人間的な信頼を裏切ることは、どこの社会でも良くないことである。
しかし、女性が台頭した先進社会と、途上国では男女間の関係の作り方は大きく違う。
男性が女性を保護する社会から、男女が等価な社会に入ったことが、途上国では理解されていない。
こうした映画を見ると、日本や韓国・香港といった途上国と、先進国の間で何が違うのかがよく判る。

 車が何台も爆破され、大がかりなセットが組まれ、大変なお金がかかっている。
日本や韓国などではヒットするかも知れないが、先進国ではどうだろうか。

2000年のアメリカ映画


TAKUMI シネマ>のおすすめ映画
2009年−私の中のあなたフロスト/ニクソン
2008年−ダーク ナイトバンテージ・ポイント
2007年−告発のときそれでもボクはやってない
2006年−家族の誕生V フォー・ヴァンデッタ
2005年−シリアナ
2004年−アイ、 ロボットヴェラ・ドレイクミリオンダラー ベイビィ
2003年−オールド・ボーイ16歳の合衆国
2002年−エデンより彼方にシカゴしあわせな孤独ホワイト オランダーフォーン・ブース
      マイノリティ リポート
2001年−ゴースト ワールド少林サッカー
2000年−アメリカン サイコ鬼が来た!ガールファイトクイルズ
1999年−アメリカン ビューティ暗い日曜日ツインフォールズアイダホファイト クラブ
      マトリックスマルコヴィッチの穴
1998年−イフ オンリーイースト・ウエストザ トゥルーマン ショーハピネス
1997年−オープン ユア アイズグッド ウィル ハンティングクワトロ ディアス
      チェイシング エイミーフェイクヘンリー・フールラリー フリント
1996年−この森で、天使はバスを降りたジャックバードケージもののけ姫
1995年以前−ゲット ショーティシャインセヴントントンの夏休みミュート ウィットネス
      リーヴィング ラスヴェガス

「タクミ シネマ」のトップに戻る