タクミシネマ        インサイダー

インサイダー     マイケル・マン監督

 タバコの毒性が、とやかく言われていなかった時代、大手煙草会社の社長たちは、公聴会での証言でこぞってタバコは無害であると証言していた。
B&W社の副社長ジェフ・ワイガンド(ラッセル・クロウ)は、タバコが中毒性を持ち、人間の健康に害があることを知ってしまった。
彼は社内の主流派から浮き上がり、とうとう解雇されてしまった。
しかも、会社内で知ったことは公開しないという契約付だった。
この契約に従って守秘義務を遵守すれば、巨額の退職金や医療保険が保証された。
彼には二人の子供がおり、そのうちの一人は喘息だった。
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劇場パンフレットから

 そんなとき、CBSのプロデューサーであるローウェル(アル・パチーノ)が、タバコに関する毒性の資料を入手する。
そして、その解読をジェフに依頼してくる。
しかし、ジェフには守秘義務があり、多くを語ることはできない。
ローウェルは国民の健康に関する問題だから、ジェフにタバコの毒性をテレビで公表するように促す。
ジェフは守秘義務と良心への恭順のあいだで揺れ動き、悩みに悩む。
この映画は、いくらかは演出されているとクレジットされるように、多少の脚色はあるが大筋で事実である。

 自分の勤務する会社が反社会的な活動をしていると、会社の内部から自分の会社を告発する動きは、1960年代から始まっていた。
この映画は、副社長という組織の幹部が内部告発するのを、CBSのプロデューサーが援助する過程をめぐって展開する。
公害を発生する企業であっても、その企業の一員であれば、自分に刃を向けるようなものである。
ジェフの場合は、解雇されたから可能になったけれど、公害を発生させることによって、自分の生計が成り立っているとしたら、簡単に内部告発などできるものではない。

 企業は自分の利益を守るために、合法非合法とわずさまざまな手段を用いて、告発者を骨抜きにし追い詰めてくる。
この映画のケースでも、守秘義務と正義感にゆれるジェフは、家庭を失ってしまう。
会社からの脅しにあい、それまでの恵まれた経済生活を失ったジェフの奥さんは、貧乏生活に耐えられなかったのである。
彼女は子供を連れて離婚してしまう。
映画だから、またすでに終わった事実だから美化されているのだろうが、ジェフは公私ともにずたずたになりながらも、何とか告発をやり遂げる。

 一方、ローウェルにもプレッシャーはかかってくる。
ジェフのインタビューを放送することは、B&W社からCBSが告発されるかも知れなかった。
CBSの身売り話が出ていた当時、B&W社との訴訟を抱えることはまずいという判断で、CBSの上部が放送停止の圧力をかけてくる。
ローウェルは報道の自由のために、仲間とやり合うが多勢に無勢である。
一度は、職場転換の憂き目にあうが、ニューヨーク・タイムズにCBSの内部告発をして劣勢を挽回する。
そして、辛うじて放送にこぎつける。

 最近では、企業活動と社会的な正義が衝突したとき、企業は下がるべきだという空気が形成されてきた。
それは企業が勝手に活動すると、他の企業にも困った現象が飛び火するという構造が明らかになってきた。
だから、1企業に対して社会的な規制をかけるようになってきたのだ。
企業の社会的な責任を重視する時代の流れを感じると同時に、もちろん信じる正義に殉じる気高い人たちの存在を、無視するわけにはいかない。
まだまだ人間は信じられる。離婚されたジェフは、その後は高校の先生にって科学を教える。

 この映画は、強烈な専業主婦批判である。
人生の難局こそ夫婦二人で力を合わせて乗りこえるべきなのに、専業主婦の奥さん(ダイアン・ヴェノーラ)は何をするでもなく、ただ夫を見ているだけ。
むしろジェフの足を引っ張っている。
彼女はジェフの正義ではなく、自分の豊かな生活が欲しかったのである。
それにたいして、ローウェルの奥さん(リンゼイ・クローズ)は共稼ぎであり、夫の難局にあっても家計を支えることができる。

 伴侶が専業主婦であることは、夫にとっても拘束である。
男性が万が一解雇されれば、彼だけではなく家族が路頭に迷う。
職場で不本意なことがあっても、自分が家族を養わなければならないとすれば、上司と衝突することはできない。
しかし、奥さんも働いていれば、万が一のときは奥さんが生活を支えてくれる。
彼は嫌な仕事を我慢する必要はない。
それは女性にとっても同じことが言える。
夫が働いていれば、不本意な仕事はしなくてもすむ。
男性は職業労働、女性は家事労働という、性による固定的な分担は、両者にとって楽しい人生を選択させない。

 最近、アメリカの映画は女性批判が、とりわけ強くなったように感じる。
あれだけ強烈だったフェミニズは、結局のところ新たなものを生まなかった。
男性たちが作った社会に、女性が参入しただけだった。
男性は女性に社会的な門戸を開いた。
しかし、女性は何処へ行くのだ。
女性は社会に何をもたらすのだ。
フェミニズムは何を生むのだろうか。
そうした苛立ちが、最近のアメリカ映画には横溢しているように感じる。
そうした流れが、信念に生きる女性ではなく、「マッド・シティ」「シビル・アクション」と信念に生きる男性たちを多く描かせている。
この映画も男性が地位や財産のためではなく、信念に生きる姿を美化している。
そして、返す刀で専業主婦批判という女性批判をしている。

1999年のアメリカ映画。


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