タクミシネマ              マッド・シティ

マッド シティ   コンスタンチン・コスタ=ガブラス監督

 博物館の警備員を首になった男サム・ベイリー(ジョン・トラボルタ)が、館長に再雇用を頼みにいく。
この男は善良だが少し単純で、一度断られたので、銃を持っていけば話に乗って貰えると考え、ライフルとダイナマイトを持っていた。
たまたま博物館の館長を、取材に来ていたマックス・ブラケット(ダスティン・ホフマン)と、十数人の小学生が居合わせる。
再雇用に関して館長は話しをとりあわないが、途中で銃が暴発して、警備員が怪我を負う。

 サムは再雇用を頼みに来ただけだったが、自分の要求を世に訴えよというマックスの口車に乗って、博物館に立てこもることになる。
結果として彼らは人質になり、三日間籠城することになる。
マックスはサムのメッセンジャー・ボーイとして、警察との連絡や取引に走り回る。
そして、独占してこの場の中継をし、特ダネをものにする。
前半はマックスが、自分の特ダネにしようと、サムに入れ知恵をして、事件を拡大させる展開である。
やがて放送局の全国ネットが仕切るようになり、マックスの個人的な関心と放送界の利益追求路線とが対立してくる。
地元警察以外にFBIも登場し、全国的な注目を集める事件へと拡大していく。

マッド・シティ [DVD]
 
劇場パンフレットから

 小さな事件がマックスというマスコミ人の功名心によって、大きく拡大される前半は、マックスが悪者に描かれている。
それが全国規模になるに従って、サムという人間との個人的な接触が抜け落ち、形式的な判断とそれぞれの組織の関心によって、事件そのものが弄ばれていく。
そこでは、視聴率稼ぎ、警察は世論操作、大衆は興味本位といった具合で、サムが訴えたかった再雇用はかすんでいく。
事件は人質を取っての強要だから、犯罪としても重く、籠城が三日目にはいると警察は犯人を射殺しようとし始める。

 事件が全国的な関心事へと転じるに従って、放送も全国ネットが切りまわし始める。
キー局のアンカーマン・ケビン(アラン・アルダ)が、乗り込んできて仕切るようになる。
アシスタントだったローリー(ミア・カーシュナー)でさえマックスを離れ、ケビンにつく。
そこで、マックスは放送の主導権が自分の手を離れていくのを感じ、だんだんと組織や功名心から離れ始める。
思い通りに局が動かないことに反発したマックスは、ライバル放送局に独占インタビューを売ってしまう。

 状況に追いつめられたマックスは、当初の思惑通りに行かないことに見切りをつけ、テレビを通じての世論の操作をあきらめる。
そして、サムの身を案じだす。彼はサムの希望を実現しようとし始めるが、事態はすでに彼らの手の届かない範囲へと拡大していた。
サムに投降を勧め、事態を収拾しようとするが、サムは自爆してしまう。

 映画としては、マックスが悪役を演じる前半と、人間愛に目覚める後半の繋がりが悪く、第一級の作品とは言い難い。
しかし、主題は良く伝わってくる。
レイオフ、再雇用の困難さ、大衆社会での個人の意見の表明の難しさ。
状況が個人の意志を越えて意見を作ること、誰しも自分のことしか考えない中で人間愛を実現する困難さなど、現代的な問題意識に支えられた主題である。

 わが国より遙かに大衆社会化が進んで、しかも、マスコミの発達は異常なくらいのアメリカで、こうした映画が作られることは、アメリカの懐の深さを改めて感じる。
映画もマスメディアの一つと見なせば、マスメディアにいる人間たちが、自分を相対的に見る視点を失ってない証である。
常に自分の意見を問われる社会では、マスメディアとて常なる自己点検が要求される。

 「マッド・シティ」というタイトル通り、大衆社会の行き過ぎを主題にしている。
しあkし、必ずしも大衆社会に反対しているわけではなく、大衆社会の中でどうするべきかを考えているように見える。
大衆社会以前の社会といえば、身分秩序が確立した封建社会だから、それに戻ることはもはや論外である。
法の支配という秩序の中で、どう人間性を保つのか、それが問われている。

 サムが再雇用を希望し、人質を取っても、館長は交渉に応じようとはしなかった。
ここには、力を背景にした交渉を、最初から拒否する姿勢がある。
暴力によって、交渉を持とうとしても、次元の違う話として、最初から対応しない。
わが国なら状況次第で、犯人と取り引きしそうだが、テロに屈しない姿勢と共通のものを感じた。
が、それと司法取引とはどう違うのだろう。

 同じ世代のロバート・デ・ニーロなどと比べても、ダスティン・ホフマンの演技は自然で好感が持てる。
また、ジョン・トラボルタが、人が良く単純で頭の少し弱い男を上手く演じていた。
彼は演技が上手くなったように思う。

1997年のアメリカ映画


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