タクミシネマ             ライアーライアー

 ライヤー ライヤー        トム・シャドヤック監督

 ジム・キャリーが扮するフレッチャーは、有能な弁護士である。
そのため非常に忙しく、しかも突発的な出来事が多い。
子供との約束はいつもキャンセル。決して守られたことがない。
家庭生活を大切にしない夫フレッチャーに愛想を尽かして、妻オードリー(モーラ・タイニー)は二年前に離婚。
それでも子供のマックス(ジャスティン・クーパー)を仲立ちにして、二人には繋がりがあった。
マックスの五才の誕生日、約束にも関わらずフレッチャーは来ない。
マックスは、父親が今日一日嘘をつきませんようにと、ロウソクを吹き消すときに願をかける。
その願がかない、父親は嘘がつけなくなる。

 弁護士が嘘をつけなくなったら、商売ができない。
その日は大事な法廷がある日で、彼は嘘をつきまくる予定だった。
しかし、青い鉛筆を赤い鉛筆とさえ言えなくなってしまった。
本当のことしか言えなくなった彼は大弱り。
嘘を言いたいのだけれど、口から出るのは本人の意志とは違う本当のことばかり。
そのため、言葉が口まで出ながら、それを言わない苦労に顔がゆがむ。
ジム・キャリーお得意の顔面形態模写で、画面に引きつけられる。
彼は絶望状態で法廷へ出る。

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劇場パンフレットから

 ジム・キャリーは相変わらずの達者な演技で笑わせてくれるが、「ケーブル・ガイ」と同じ現代的な主題の映画で、見終わって考えさせられることが多かった。
まず、現代の花形職業である弁護士が、有能であればあるほど、家庭生活から離れがちなことが前提とされる。
フレッチャーだって子供を愛しており、子供との約束を破るつもりはない。
しかし、結果として約束が果たせない。
子供より仕事になりがちである。

 この映画は嘘をつくことが悪いと言っているのではない。
ある時、嘘は人間関係の潤滑油にもなるし、法廷での争いに嘘はつきものかもしれない。
この映画は、それまで否定しているのではない。
そうではなくて、子供の世界と大人の世界が錯綜したとき、どちらが優先されるべきかというのが主題である。
「ケーブル・ガイ」では、子供がテレビをベビーシッターとして育つことへの批判だったが、そのもう一つ前にある現代社会の職業を優先させる生活の批判である。

 肉体労働が主流だった時代、大人たちは子供から見えるところで働いていた。
しかも、誰の生活も同じようだったので、子供との付き合いも簡単だった。
大人と子供がいっしょになって、村を上げての祭りだってできた。
しかし今や、生活は個人的になり、各人は各人の予定にしたがって生活している。
子供と大人の生活のリズムは違ってしまった。
特に男性は家庭生活を犠牲にしなければ、職業上の評価が得られなくなってしまった。
大人の社会は、今後ますます過酷な労働を強いてくる。

 子供の世界、それは大人の世界とは違う。
子供は言葉をそのまま信じる。
それに大人が答えられないとき、子供はどう育つのだろう。
それがこの映画でも主題である。
だから、「ケーブル・ガイ」の延長上にある映画なのである。
最近のアメリカ映画では、家族のあり方を考えるものが多かったが、家族全体から子供や子育てへと主題が少しずつ移っている。
成人した人間は自分でやっていくだろう。
しかし、次の世代である子供は、放置したままでは育たない。
何とかしなければと言う危機感が、この映画とか「ドタキャン パパ」を作らせるのだろう。
次世代への関心、それはロバート・デ・ニーロの映画制作とも同じ動きである。
ジム・キャリーもまごうことなき優れた現代人である。

 笑える場面がたくさんあって、面白い映画だとは思うが、ジム・キャリーのワンマン映画的色彩が強い。
テレビで育った彼の演技は、大きなスクリーンを埋めきれない。
以前の喜劇役者たちは体全体で演技したので、画面が大きい映画でも充分につとまった。
しかし、顔の演技が中心の彼には、地のままで出演する映画は少し荷が重いようだ。
そこを監督が演出すべきなのだが、この映画では監督がジム・キャリーに引きずられている。

 体全体の演技、極彩色を使った非日常的な画面、奇想天外な仕掛け、大勢の絡んだ展開などを組み込んでくれば、ジム・キャリーという俳優はもっともっと生きると思う。
家庭から子供へと、ますます人間存在の本質に近づこうとするアメリカ映画は、今後も看過できない。             

1997年のアメリカ映画


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