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ザ エイジェント    キャメロン・クロウ監督

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ザ・エージェント [DVD]
 トム・クルーズ演じるSMIのナンバーワン エイジェント:ジェリー・マグワイヤーが、選手やファンを無視した金儲け主義に嫌気がさし、 自分の会社の全従業員に26ページにわたる提案書をだした。
顧客を減らし、選手の身になって代理しようというのである。経営者はそれを許さず、彼は解雇される。
彼に付いてきたのは、従業員では女性経理係のドロシー・ボイドのみ。
顧客では、落ち目のアメリカン フットボールの選手ロッド・ティドウェルただ一人。

 スポーツ選手の代理人をつとめるエイジェントが主人公なので、「ザ エイジェント」というタイトルがついている。
しかし、主題は家族もので、職業であるエイジェントの仕事に挺身すると、結婚生活が上手くいかず、ヒーローとヒロインがその両立に悩む話である。
キャメロン・クロウ監督のこの映画の原題は、主人公の名前のまま「ジェリー・マグワイヤー」である。

 ドロシーはジェリーの提案書にひかれて、彼について会社をやめ、ジェリーの会社を手伝い、やがて彼と結婚する。
仕事に没頭する彼はアメリカ全土を飛び回る日々。
仕事に熱中する彼を見て、仕事から彼を引き離すのは酷だと考え、彼女は彼との家庭生活をあきらめ離婚を決意する。

 ジェリーの黒子になる道を選ばず、彼の人生は彼の人生、私の人生は私の人生と考えるここが、我が国の夫婦関係とは違う。
たった一人の顧客ロッドはなかなか売れないが、ジェリーの忠告によって大活躍。
ロッドの活躍と、彼の家庭生活を見るうちに、ジェリーも家庭の大切さが判り、二人は仲直り。

 プロ・スポーツ界で大金が動いている話はよく耳にする。
この映画はそこを舞台にしてはいるが、エイジェントを職業にした人間が悲鳴を上げるところから始まる。
現代の職業は、職業自体が各地を移動することを要求し、残された家族との家庭生活が成り立たなくなりがちである。

 そのうえ24時間にわたって、仕事に集中することが要求され、たとえ体は家庭にあっても心は仕事に向いている。
そうしなければ、競争から取り残される。
仕事は金儲けが目的で、その間に人間的で温かい要素が入りこむ隙間はない。

 この映画は、エイジェントという仕事は顧客と人間的なつながりの上に成り立っていたはずだという。
それは愛情が基礎になっているはずであり、家族関係と何ら変わるものではないという。
いわば愛情至上主義を結論とする映画である。

 主題についてはまったく異論はなく、むしろ当然だと思う。
しかし、ハリウッドが職業と家庭生活間の、個人的な問題を悩むこうした映画を作るのは下手である。
それには映画としての主題設定が小さすぎる。
元来が大きな画面で、荒唐無稽な話をみせる体質のハリウッドでは、人間の細かい心理描写が苦手で、細かいところまで手が届かない。

 1人の深い人間観察を画面に展開するには、黒白をつけがたい微妙なものを画面に並べざるを得ない。
それは、個人的な作業である。
ハリウッドのように会議や合意の上に成り立つシステムでは、大勢の制作者たちの合意を作るため、単純明快な映画作りが指向されがちである。
大規模な物語の背景を持たないこの映画は、密度を上げることができなかった。

 「ミッション・インポッシブル」では好演したトム・クルーズは、活劇向きでラブシーンが下手。
ヒロインを演じたレニー・ゼルウィガーは、従順な色仕掛けとかわいい子供で男を捕まえる役。
女性的な特性を強調する展開は、もはや魅力的ではない。
彼女は、「エンパイヤー レコード」でいい演技をみせているが、この映画では監督の意志を忠実に実現し演技が上手いがゆえに、かえって魅力のない女性となっている。

 自己主張が少なく、男性のサポート役と家庭生活が大切という女性は魅力がない。
ドロシーの家は離婚した女性たちのたまり場となっているが、彼女たちのほうがずっと元気があって魅力的である。
ロッドに対してジェフリーが同僚を責めるのではなく、観客は君のガッツプレイを望んでいると言う。

 この台詞が、男性を敵視しながら男性との愛情に飢えている女性たちへも、向いていると思う。
男性を敵視せず人間としてガッツプレイをすれば、男性は寄ってくるというメッセージだと思うので、映画制作者の気持ちは理解はできるのだが、その解答がドロシーの生き方では納得できない。

 この映画は大画面でありながら、画面の密度が低い。
動きの少ないすかすかの画面で、大味な映画になっていた。
もっと大勢の人物を、話の展開に組み込んだほうがいい。
顔のアップが多く、無意味に長いカットは、アメリカの映画ではないようだ。
あと30分詰めたほうがいい。
ロッドを演じたキューバ・グッディングjrが上手く、彼等の夫婦関係は美しかったが、あれは女性に経済力がない工業社会の夫婦関係である。

 毎度のことながら、アメリカ映画の子役はうまい。
ドロシーの子供レイ・ボイドを演じたジョナサン・リップニッキーは非常に上手く、すでに大人と同じレベルで役者として評価する対象である。
1996年アメリカ映画


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