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 スリーパーズ      バリー・レヴィンソン監督

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スリーパーズ [DVD]
 何でもなく生活していた子供たちマイケル(ブラッド・ピット)、シェイクス(ジェイソン・パトリック)、トミー(ロン・エルダード)、ジョン(ビリー・クラダップ)の四人が、 ほんの悪戯心で人に大怪我をさせ、少年院に収監される。
そこでは看守たちによる子供たちへの拷問と強姦が繰り返されていた。
暴力の洗礼を受けた彼等は、出所後十数年して当時の看守たちに復讐する。
実話に基づいた映画である。

 彼等が生活していたのは、ヘルズ・キチンと呼ばれるニューヨークの無法地帯である。
しかし1960年当時、そこにはそこの掟があり、その地域共同体はもとマフィアだったキング・ベイー(ヴィットリオ・ガスマン)によって仕切られていた。
そこの住人たちにとっては、掟を守る限り安全な場所だった。
そして、心のよりどころとして、カソリック教会のボビー神父が地域の人々の相談にのっていた。

 四人の子供たちは、少年院が更正の場所ではなく、ただ暴力の支配する世界だと知ったときは遅かった。
執拗に繰り返される暴力、そして夜毎に忍んでくる看守の強姦、または看守たちによる輪姦。
彼等はそこでの体験が精神の奥深く刻まれ、正常な精神を維持できなくなる。
成人後、マイクは地方検事に、シェイクスは新聞記者に、トミーとジョンはギャングになっていった。

 ある時、看守だったノークス(ケヴィン・ベーコン)がレストランで食事しているところに、トミーとジョンが偶然行き会う。
その場で、彼等はノークスを射殺する。
衆人の監視下での殺人だからたちまち逮捕され、起訴される。
その事件の担当をマイクは志願する。
マイクは、彼等二人を無罪にし、しかも少年院での復讐を果たそうとする。
看守を証人として出廷させたり、汚職をばらしたりしながら、復讐が進んでいくが、目撃者の証言があって彼等を無罪にはできない。

 無罪にするためには、彼等のアリバイを証明する誰かの証言が必要である。
そこで、ボビー神父(ロバート・デ・ニーロ)に証言=偽証を依頼する。
神に使える彼は悩みに悩んだあげく、偽証する。
嘘をつくことはできない神父が、公判で偽証する。
神父の証言は、目撃者の証言より強い。
まさか偽証とは思われず、彼等は無罪になる。
少年院の状況も暴かれ、とうとう復讐がなる。

 2時間30分という長い映画であるが、少しも長さを感じさせず、バリー・レヴィンソン監督の世界に引きずり込まれる。
少年院の長い地下トンネル、公判で弁護士ダニー・スナイダー(ダスティン・ホフマン)がつかえた時のタイプライターの挿入など、印象的なシーンもあって良くできた映画である。

 とりわけ、ボビー神父が法廷で偽証することは、神よりも子供たちのへの愛が優先した彼の心理的な葛藤が判って考えさせる。
カソリックの教会システムが壊れはじめ、社会的な機能を喪失していることが、映画制作者たちにこうした展開をとらせる原因である。
農耕社会の宗教カソリックは、情報社会的な矛盾の前に無力で、いまや害悪でさえある。

 映画としては良くできている。
セヴン」「陪審員」などの私刑肯定の上にある映画である。
私刑肯定のこうした傾向には、なんだか怖い感じがする。
共同体の掟が崩れ、しかも法によって正義が守られなくなったとき、何が人を守るのか。
この映画は、法のもと、公判によって復讐をするが、それとても偽証が必要だった。
トミーやジョンたちがノークスと遭遇していなければ、そのきっかけすらない。

 少年院や刑務所・軍隊といった閉鎖された場所での犯罪は、外部から伺い知ることができない。
また被害者が告発しても、被害者自身がすでに社会的な悪者であり、看守たちは犯罪者より良識的であるという常識がまかり通っているから、被害者の主張に耳を傾ける者はなかなかいない。

 その上、性的な虐待が伴うときは、被害者が人格の崩壊を防ぐために、被害にあったことを口外しないので、ますます判りにくい。
犯罪が密室化していき、被害者は犯罪の立証すら難しくなる。
初期工業社会までこうした集団では、それなりの掟が集団の秩序を維持してきた。
掟の無力化が私刑の肯定へとつながるのだろうか。

 「ブルックリン物語」「マイ ルーム」と、ローバート・デ・ニーロは、子供の将来には真から心を砕いている。
この映画でも、子供たちが少しでも健康に生きれるようにとの、祈りとも言える演技がひしひしと伝わってくる。
彼の立場は保守的なもので、筆者とはいささか立場が違うが、その信条的行動には頭が下がる。

 子供時代と成人後の人相がつながっておらず、同一人物と認識するのに時間がかかった。
ジャック」のように、似ている俳優をキャスティングして欲しかった。
弁護士ダニー・スナイダーを演じたダスティン・ホフマンが上手かった。
1996年アメリカ映画。


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