タクミシネマ                  マイ・ルーム

マイ ルーム    ジェリー・ザックス監督 

 ロバート・デ・ニーロ、ダイアン・キートン、メリル・ストリープ、レオナルド・ディカップリオと、芸達者の顔合わせである。
劇場用映画は初めてのジェリー・ザックス監督だが、これら俳優陣のいまや保守的な家族感が、強く反映している。

 メリル・ストリープ演じるリーは、二人の男の子を育てながら、独力でオハイオで生活している。
ところが、リーと長男ハンク(レオナルド・ディカップリオ)は最悪の仲で、リーへの反抗のために、ハンクは自宅に放火して構成施設に収容されている。

 そんなとき、20年も音信不通だった姉ベッシー(ダイアン・キートン)が白血病になる。
骨髄移植のドナーを求めて、近親者である妹リーに医者から電話が入る。
リーは子供を連れて、ベッシーたちの住むフロリダへ来る。

マイ・ルーム [DVD]
劇場パンフレットから

 姉のベッシーは、年老いた父親マーヴィンと叔母の面倒を見ており、リーにはそれがベッシーの生活を犠牲にしているように見える。
リーはそんな生活は嫌いで、子供を持っても男に頼らず、何とか自立した生活をしたいと考えている。
しかし、血をわけた姉からの電話には、駆けつけざるを得ない。
20年のブランクを越えての再会が、生み出すほろ苦く暖かい家族愛が、この映画の主題である。

 「ブルックリン物語」で家族の重要性を展開したロバート・デ・ニーロが、この映画の製作にもかかわっており、彼の家族に対する思い入れが感じられる。
家族が崩壊し、よるべき基準がなくなっている現在、彼は血縁こそ護るべきものだと考えている。
それが白血病に限らず、遺伝的な相似性が大きな意味をもつ、生理の世界に人間関係の根拠を求めて入らせるのであろう。
「ブルックリン物語」では、父親が子供に伝える価値観が主題だったが、今度は家族を支えるものが血縁になっている。

 血液型とか体質とかは、遺伝的な要素が大きく、移植適合性は血縁者の方が高いことは事実である。
しかし生理的な事実は、社会的な人間関係まで規定しないというのが、差別を克服する情報社会の道徳である。
だからこそ、肉体的には非力なままでも、女性の社会的な台頭があった。
肉体的な特性と社会的な存在は別物である。
肉体的な事実と観念のあいだの距離を、計れるようになったのが情報社会である。

 家族が大切であることはもちろんだが、家族とは血縁によるものばかりではないという確認こそ、現代の社会が到達した結論である。
精神的なものこそ、家族をつなぐもっとも大切な基盤であるというのが、ゲイや連れ子まで許容する現代の家族である。
「マジソン郡の橋」の時のメリル・ストリープにも、古きよき家庭的な主張を感じたが、ロバート・デ・ニーロと彼女は、血縁の家庭を護れと言う保守的な主張をしている。

 この映画でも、リーは離婚しており、ベッシーは未婚である。
核家族という古き良き家族形態がすでに常態ではないことは、家族擁護派の彼らも認識している。
家族が崩壊しているから、血縁にしがみつくというのでは、あまりにも人間不信である。

 腕力優位という自然の現象が、社会的な支配概念ではなくなった。
だから、女性の台頭があった。家族の崩壊が血縁に行き着くところでは、女性の社会的な台頭の論理的な根拠を失うことになる。
彼等はそれに気づいていない。「バード ケージ」は、同居している人間に限らず、すべての人間が家族だと言っている。
こちらの方がはるかに寛容で、未来指向的である。

 愛される幸せではなく、愛する幸せが大切なのだと、映画は言う。
愛は愛することから始まる。
これは確かにその通りである。
愛する対象がいる幸せとベッシーは言うが、これは血縁の家族でなくても充分になりたつ。
寝たきりになっている父親と痴呆気味の叔母の世話をしているベッシー。

 愛情を注ぐ対象をもてたことが、幸福だったと言う彼女の言葉は、どんな家族形態にあっても妥当する。
愛される幸せより愛する幸せとは、家族愛に限らず、すべての愛情に共通する。
それは、愛情の本質的な形だろう。

 次世代を思うロバート・デ・ニーロの誠意ある行動には敬意を表するが、この映画は扱っている主張に限らず、映画としてもすでに古い。
レオナルド・ディカップリオを除いた、三人の演技は硬く、アメリカの俳優としては大時代的である。

 無言で顔をアップするシーンが長かったり、ディズニー ワールドでの逆光のシーンが長かったりと、不要なカットが多い。
このあたりは監督の権限なのか、編集の権限なのかわからないが、テンポが悪い。
そのなかで、リーの次男を演じたチャーリー(ハル・スカーディノ)が上手かった。
 原題は、「Marvin's Room」である。

1996年のアメリカ映画

 

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