タクミシネマ                   ハーモニー

 ハーモニー   マーク・ジョフィ監督

 オーストラリアの精神病院での話。治療の一環として患者に劇をやらせようとする。
そのために担当者を雇うが、これに応募してきたのは、さえない男が二人だけ。
幸運にも採用されたルイス(ベン・メンデルソーン)は、演出も仕事としてやっているだけだったが、やがて患者たちの熱意に惹かれてのめり込んでいく。

 病院側はバラエティーショーのつもりで始めたが、患者たちはオペラを希望。
モーツアルトの「COSI」を演じることになる。
そうは言ってもそこは精神の患者たちだから、簡単には実現しない。
その顛末をコメディータッチで描いている映画であるが、オペラの上演に向けた日常のなかで、健常者と患者の境がなくなり、愛と信頼といった基本的な主題が浮き彫りにされてくる。

 主人公のルイスは、弁護士見習いの女友達ルーシー(レイチェル・グリフィス)と同棲しているが、そこへ友達のニックが転がり込んでくる。
ニックは演劇志望の若者で、デカダン的な生き方である。
ルイスは精神病患者たちに深く関わり、ルーシーとのあいだが疎遠になる。

 ニックは、二人の関係が崩壊する触媒役を果たしてしまう。
彼は演劇志望でありながら俗物で、人間心理などまったく分からない男であることがやがて分かる。
それを患者や精神障害という現実にあぶり出されるように描く。

 精神病院を舞台にしているが精神病患者が主題ではなく、精神病患者とつき合うことによって生じる健常者の心的な変化が主題である。
まさに精神病患者は、健常者のために存在するという理念を、具体化した映画である。
精神障害者の演劇だって、それでは出演者をオーディションで決めましょうと言う。
募集=オーディションという発想には驚いたし、映画とはいえ、大勢の人がそれに応募するのにも驚いた。
このオーディション風景が、実にユニークで面白い。

 この映画は精神障害者を、決して美化していない。
精神障害者には様々な人がおり、重症者には通常の社会生活は不可能だとまず前提している。
そして軽度の場合だけ、健常者との生活は可能で、この人たちは障害を除けば健常者と変わらないと前提している。

 これは、最近のオーストラリアの映画に共通の考えで、精神障害に対する姿勢には眼を見はるものがある。
女性解放がなされつつある今、人権の解放は次々と新しい人々を対象にして拡がり、今まで光の当てられなかった人々を検討の俎上に乗せている。
この動きは、西欧の先進国共通である。

 「ミュリエルの結婚」「シャイン」「エンジェルベイビー」と、障害者を扱った映画を多産するオーストラリアには、ほんとうに注目である。
精神障害をどう克服するかは、肉体的な障害の差別が克服される今後の情報社会では不可避の主題であり、オーストラリアではよくそれに挑戦している。
簡単には結論が出るわけではないが、様々な試みがなされ、その中から僅かな光が見えてくる。

 主役のルイス以上に出番の多いロイ(バリー・オットー)は、達者ではあるが大げさな演技で、古い感じがする。
また、麻薬中毒で入院しているジュリー(トニ・コレット)は、いい役過ぎる。
映画としては、精神障害者も健常者と変わらないと言う主題に、やや押されている感じがする。

 話の展開に、もう少し起伏が欲しいと思うが、決してダメな映画ではなく、夫に捨てられたルース(パメラ・レイブ)が手首を切ろうとする場面などとても美しい。最後に演奏されるアコーディオンが雄弁で、良いエンディングだった。
1996年オーストラリア映画。


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