タクミシネマ                   ミュリエルの結婚

 ミュリエルの結婚    P・J・.ホーガン監督

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ミュリエルの結婚【字幕版】 [VHS]

 何をやっても、うだつの上がらない太ったブスの女の子ミュリエル。
彼女は田舎の高校を卒業しても、就職もせずに家にいた。
彼女は高校時代の同級生からいじめられても、他に友達がいないので、いじめられながらも彼女たちから離れられなかった。

 ある結婚式で、投げられた花束を受け取ってしまうことから、彼女の生活が変わる。
女友達たちはそこそこにかわいくて、適当に遊んでやがて結婚していく人たちだが、ミュリエルが花束を受け取ってしまったので、ミュリエルが結婚するまで誰も結婚できない。
それで彼女が邪魔になりだしたのである。花束を取りたかった女友達から、もう遊んであげないと宣言される。

 ミュリエルが遊びにいった先で、高校時代のいじめられ仲間だった同級生ロンダと出会う。
ロンダはシドニーにでて働いており、今日的な女性に変身していた。
ロンダに刺激されたミュリエルは、ロンダと一緒にシドニーへでて、働きロンダと同居を始める。
ここで彼女は生き返って、はりきって生活を始める。
しかし、田舎での結婚式が夢だった彼女には、自分も白いウエディングドレスを着ることが忘れられない。

 結婚することが至上の夢になったミュリエルは、オーストラリア国籍取得のためにオーストラリア女性と結婚を望む南アフリカ人と結婚する。
しかしこれは偽装結婚で、しかもミュリエルにとっては、田舎の人を見返したくての結婚だった。

 ロンダは脊髄をおかされて下半身不随になっても、自立心は失わなかったが、ミュリエルの結婚を見て絶望し田舎へかえる。
結婚はしたものの、何も変わらないことに気づいたミュリエルは、虚勢をはることの愚かさと友達の大切さを知る。
夫と分かれ、再度シドニーで一緒に暮らすようロンダを迎えにいく。

 ミュリエルの家庭は、やり手のお父さんとおとなしいお母さん、それにぐうたらな子供たちだった。
しかし、子供たちがぐうたらになったのは、お父さんが子供たちを無能呼ばわりし、しかも子供たちの意志を無視して、家族の世間体を整えてきたせいである。
お父さんはお母さんをコケにし続けてきたから、夫婦仲も最悪である。
このお父さんは、子供を信じたことがないし、子供を一度だって誉めない。
これでは子供はまっとうに育ちようがない。
おまけに子供だって、お母さんを無視するようになる。

 お父さんはお母さんに嫌気がさし、魅力的な女性と同棲してしまう。
ミュリエルの結婚式には、お父さんと並んで出席しているのは、同棲している女性である。
結婚式に遅れてきたお母さんをミュリエルは、嬉しさの余りつい無視してしまう。
お母さんは離婚といわれたとたんに、睡眠薬を飲んで自殺してしまう。
経済力のない専業主婦の悲劇である。

 田舎の生活は、有力者といわれる人には様々な特権が与えられ、既存の秩序を守る限り共同体が人々の生活を守る。
その秩序とは、結婚して平和な家庭生活を営むことにあり、それから逸脱することは全否定的に扱われる。
田舎の生活は、個人個人の尊厳ではなく、地位とか形式や権威が大切にされる。
しかし、一度有名になったり、お金持ちになったりすると、たちまち名士にされる。
そこには、人間それ自体を見る眼はない。

 人間性を大切にしようと訴える映画である。
結婚を相対化し、様々な生き方を許容し、個人を解放しようとする。
しかも、田舎の生活が、精神より物や地位に重点を置いているのにたいして、人間の精神的なつながりこそ貴いと訴える。
ミュリエルがロンダを迎えにいって、なぜ私を迎えに来たのかと聞かれると、ただ「友達だから」と答える。
この返事が本当に心に沁みる。

 主人公ミュリエルを演じたトニ・コレットは、本来痩身の美女なのだが、この役のために20キロも太ったんだという。
SFXばやりの今、本当に20キロも太ったのは驚きだが、痩せるのに四ヶ月かかったというのも納得できるし驚きもする。

 同じオーストラリアの映画「プリシラ」も都会指向の映画だったが、この映画もきわめて個人主義的な都会指向の映画である。
個人化は、お母さんのような犠牲者も出すが、肯定せざるを得ない流れである。
都会人の象徴であるロンダが、とてもかっこいい。
最後のシーンが終わって、思わず拍手をしたくなったほど、心温まる映画である。
1996年オーストラリア映画。


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