タクミシネマ        プレステージ

プレステージ  クリストファー・ノーラン監督

 1800年代も末のロンドンでの話。
当時は奇術師がアイドルであり、スターだったらしい。
彼等は競って、奇術のタネを考案した。
一時は仲間だったロバート(ヒュー・ジャックマン)とアルフレッド(クリスチャン・ベール)は、
アシスタントの女性ジュリア(パイパー・ペラーボ)の死をめぐって、決定的に対立してしまう。

photo of the prestige,  christian bale
imdbから

 ジュリアはロバートの奥さんだったが、アルフレッドの縛り方が約束と違えたために、彼女は水槽から脱出できなかったのだ。
彼女はもがきながら、水死してしまった。
ここから復讐が絡んだ因縁の対決が始まる。
天才肌のアルフレッドが新たなネタを考案すると、すぐロバートがそれを追いかける。

 アルフレッドはやがてサラ(レベッカ・ホール)を奥さんに迎え、子供もでき幸せな日々を送っている。
しかし、このままでは映画が終わってしまう。
アルフレッドのネタが、どうしても判らないロバートは、アシスタントのオリヴィア(スカーレット・ヨハンソン)を、
アルフレッドのところへと潜り込ませ、ネタを盗んでこいという。

 奇術師にはネタを考案する影の人物がいる。
アルフレッドにはファロンが、影の人物だった。
アルフレッド、セラ、ファロンそれにオリヴィアの4人が、一緒になって暮らすうちに、アルフレッドはオリヴィアと仲良くなってしまう。
しかし、ファロンの描写は極端に少ない。
ここがこの映画の第一のキモである。
映画はタネのさぐり合いと、アルフレッドとロバートの覇権争いを描いていく。

 サラが地味な女性であるのに対して、スカーレット・ヨハンソンの演じるオリヴィアが登場すれば、男性がよろめくのは先が見えている。
スカーレットをキャスティングした段階で、男性のよろめきが決まっていたのだろう。
今やスカーレットが登場すれば、妻や恋人のいる男性がよろめくのは当然視されている。
アンジェリーナ・ジョリーの活劇と同じように、男殺しは彼女のキャラクターとなってしまった。

 アルフレッドのタネは正統派のもので、奇術の王道を洗練させたものだ。
それに対して、ロバートのネタは、映画の上では約束違反になっていた。
映画はどんなに奇想天外な展開になっても良いし、不可能を前提に話を作っても良い。
しかし、最初に前提にした約束を、途中で反故にしてはいけない。
空を飛べない前提だったものが、何の説明もなく突然に空を飛んではいけないのだ。
それは映画を作る上での約束違反だ。

 映画作りの約束破りをする後ろめたさからか、この監督は最初から伏線をたくさん置いていく。
同じシルクハットをたくさん見せたりするが、こんな伏線だけで約束破りは正当化できない。
ロバートはニコラ・テスラ(デヴィッド・ボーイ)という科学者に、空間移動の方法を発明させる。
それを人間で使って奇術とするのだが、
空間移動が不可能である以上、こんなネタを使うのは約束違反なのだ。
しかも、このネタは途中ですでに見えてしまっている。

 奇術のネタを考案するのは難しいと思う。
しかし、だからといって最初の前提を、反故にして良いとはならない。
ありえない空間移動が可能だというネタなら、最初からその話を組み込んでおくべきだ。
途中で変えたら、話全体が成り立たなくなってしまうだろう。
空間移動が可能なら、ロバートのやったことは奇術も何でもない。
あれなら誰でもできる。

 「メメント」で一躍有名になったので、お金がかけられるようになり、この監督は有名俳優も使えるようになった。
それを反映して、セットや舞台美術・ロケハンなどは、たしかに充実している。
しかし、映画の映画たるゆえんは、セットの豪華さや精巧さでもないし、有名俳優をキャスティングすることではない。


 監督の訴えたい主題を、いかに説得的に映像化し、表現するかである。
そのためには、映画としての約束事があり、それを逸脱するのは余程のことがなければ、観客は納得しがたい。
オチにつまったので、最初の約束を反故にして良いわけがない。
強いていえば、コピー文化が情報社会の表現だとも言えなくはないが、それはちょっと強引な解釈だろう。
 2006年のアメリカ映画    (2007.6.14)

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