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ラブソングができるまで
マーク・ローレンス監督

 お手軽なB級映画だが、現代社会の男女関係をきちんと描き込んでいる。
こうした映画は我が国では撮ることができない。
女性が自立し始めた国での、仕事のあり方であり、男女関係の物語である。

 アレックス(ヒュー・グラント)は、1980年代には大活躍したポップ・ミュージックのアイドルだった。
しかし、グループが解散した今では人気はさっぱりである。
子供向けや遊園地などのドサまわりの日々だった。
ときどき、往年時代のファンが現れて、過去の栄光を思い出させてくれる。
そのため過去が吹っ切れず、もはや行く先は落ちぶれていく。
そんな将来像しかなかった。

photo of music and lyrics,  drew barrymore, hugh grant
imdbから

 今をときめく人気歌姫コーラ(ヘイリー・ベネット)が、かつては彼のファンだったという。
あろうことか、彼女から作曲を依頼される。
数年ぶりに作曲に向かうが、作詞ができない。
そこへ現れたのが、植木に水をやるバイトの女性ソフィー(ドリュー・バルモア)だった。
彼女は大学で文学をめざしていたが、指導教官に恋をして捨てられ、挙げ句のはてには、2人の関係を小説の題材にされた。
しかも、彼女はぼろぼろに描かれていた。


 彼女にはもともと文才があったのだが、指導教官との恋に破れてから、自分には才能がないと信じ込んでいた。
しかし、アレックスが彼女の才能を発見する。
そして、作詞をして欲しいと懇願し、2人で作詞・作曲が始まる。
ソフィーの姉(クリステン・ジョンストン)がアレックスのファンだったとか、コーラが仏教に凝っているなどいった話が絡みながら、恋の物語は発展していく。

 80年代アレックスは、腰振りダンスをしながら、ポップスを歌っていた。
当時は男性が舞台で歌い、女性ファンが追っかけた。
ジャニス・ジョプリンなど例外だった。
しかしマドンナ以降、女性スターが腰振りダンスをして、女性や子供たちが女性スターに熱狂する。
男性は見向きもされない。
この映画を成り立たせているのは、女性の台頭と男性の凋落である。
男性は過去の成功体験から逃れられず、新たな時代に対処できない。 

 工業社会までは、食料や物の生産が主だったから、財の有用性は誰にも判断できた。
そして、財の生産には、男性のほうが適していた。
しかし、情報社会では、必ずしも財の生産をめざさない。
情報社会になって、男性たちが創ってきた文化の価値が低下した。

 情報社会では、無形のものが有用になった。
無形のものは人間が生きるための基本財ではない。
しかし、今や無形のものが、価値となり有償で取り引きされる。
無形のものの生産には、男女で適合差はないし、だいたい無形のものは価値を決める基準がない。
そのため、その価値の判断は、多数決に従うことになる。
とすれば、人口の半分は女性だから、半分は女性の意見が決定する。

 上記のような背景があるから、作詞といった領域では、女性も充分に才能を発揮できる。
いままで女性の才能が、発見されなかっただけだ。
女性が本やcdを買う経済力をもてば、女性好みの作詞がヒットするのは当然である。
なにしろ人類の半分は女性なのだ。
女性を巻き込んでヒットを狙うには、男性の工業社会的発想では不可能だ。


 男性が舞台上で腰振りダンスに興じ、それに女性が熱狂する時代は過ぎた。
男性の腰振りを見るのではなく、いまや女性が腰振りダンスをする。
この映画は、そうした時代背景をバックにしている。
そしてもう1つの主題は、女性の才能を、高齢男性が収奪しているというものだ。
ホリデイ」でもアイリスが、自分の才能を男性上司に収奪されていたが、ソフィーは指導教官に収奪される。
そして、その痛手からなかなか立ち直れない。

 本人にも才能を収奪されているのは判っていても、恋人の前にでると支配されてしまう。
これは女性だけの問題ではなく、親子関係でも同じ現象がおきる。
一度できた上下関係はなかなか崩せず、下だった人間はいつまでたっても、横並びになれない。
かつての貴族と庶民の関係も、近代になって社会的には平等になったが、個人的にはなかなか頭が上がらなかっただろう。
旦那様と爺やの関係は、個人の内面にしみこんでおり、長い年月がたっても簡単には崩せない。

 しかし、自分が支配されていると自覚しなければ、支配から逃れることはできない。
だから、女性が内面的に支配されていることを、自覚し始めてきたことだけでも良しとすべきだろう。
なにせ男性の自立の近代だって、300年くらいかかったのだ。
女性の自立は日程に入っては来たが、女性が精神的に自立するのは、まだまだ時間がかかる。

 この映画では触れられていなかったが、「ルィーズに訪れた恋は…」など、高齢の女性が若い男をたぶらかす話も、今後増える主題であろう。
男性支配からの自立と、年下の男を可愛がる心理は、同じことの両面なのだ。
アメリカでは女性教師が、男生徒をたぶらかす年齢差のある恋愛が、激増しているらしい。
明らかにセクハラでも、本気の恋愛となれば許されるのだろう。

 ビーバー人形のようなコーラが、子供たちに人気があるという設定も、なかなかに時代を読んでいる。
大衆的に人気を獲得するには、中性的にならなければならないだろう。
それと同時に、ドリュー・バルモアのような少しズッコケた女性も、コメディを演じて人気を維持していくだろう。
原題は「Music And Lyrics」   2007年のアメリカ映画
   (2007.5.2)

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