タクミシネマ        キック・アス

キック・アス   マシュー・ヴォーン監督

 原作はアメリカン・コミックだというが、渋谷では大変な人気映画である。
日曜日に映画館に行ったら、満員で入れなかった。
祭日に出直しても、午後の回は売り切れだった。
ネット予約を使っても、午後の回は入手できず、夜の回になってしまった。

 2006年に「G ガール:破壊的な彼女」という映画が封切られた。
「キック・アス」は「G ガール」の路線にあると言っていい。
草食系男子たる高校生のデイヴ(アーロン・ジョンソン)が、スーパー・ヒーローに憧れてしまった。
貧弱な身体で、女性に持てない彼だが、インターネットで買ったスーツとマスク姿にうっとりする。

Still of Aaron Johnson and Chloe Moretz in Kick-Ass
IMDBから
 その姿で、正義を実現しようと街へでる。
スーパー・ヒーローのコスプレはしたものの、たちまちチンピラにボコボコにされてしまう。
しかし、果敢にチンピラに抵抗する姿が、ネットに投稿される。
すると正義を貫くスーパー・ヒーローとして、キック・アス(Kick-Ass)”の名で街中に知られるようになる。

 デイブはからっきし弱い。
しかし、父と娘のコンビであるヒット・ガール(クロエ・グレース・モレッツ)と、ビッグ・ダディ(ニコラス・ケイジ)が彼を助けた。
父娘のコンビは、武術の訓練を受けており、武器の使い方にも長けていた。
そのため、名実ともにスーパー・ヒーローだった。
デイブの登場まで、なぜ彼等が世に出てこなかったか、は問わないことにしよう。

 暴力団のボスであるフランク・ダミコ(マーク・ストロング)を倒すべく、3人は協力し始める。
デイブにとって、フランク・ダミコが標的になる理由は、今一よく判らないのだが、父と娘にとっては妻の敵、親の敵であった。
つまり、フランク・ダミコによって、刑事だったビッグ・ダディははめられて、犯罪者になってしまい5年の刑を食らってしまったのだ。
その結果、奥さんだった女性が死んでしまい、娘が残ったというわけである。

 この手の映画には、あまり厳しい詮索はしないほうが良い。
お馬鹿な映画を、そのまま楽しむべきだ。
デイヴが憧れる同級生ケイティ(リンジー・フォンセカ)から、ゲイと間違われたりしながら、結局は2人は結ばれる。
もちろん、高校生の彼等もたちまちセックス浸りになる。

 金持ちの同級生クリス・タミゴ(クリストファー・ミンツ=プラッセ)が、悪のスーパー・ヒーローであるレッド・ミストとして登場する。
これがフランク・ダミコの息子だったりと、素晴らしいご都合主義である。
この映画は難しいこといわずに、楽しめばいい。

 時代はきっちりと進んでいる。
「G ガール」は女性版スーパーマンだったが、この映画はヒロインであるヒット・ガールが、小学校低学年の女の子なのだ。
スーパーマン物は、男の子の世界だった。
しかし、小学校低学年の女の子が、草食系男子の高校生よりも、はるかに強いのだ。

 今まで女の子は、スーパーマンに保護される立場だった。
スパイダー マン」だって男の子だし、ヒロインのMJ(キルスティン・ダンスト)はスパイダーマンに守られる役だ。
今まで、女の子が武器を手に格闘することはなかった。
しかし、時代は男女平等の道を歩いている。
ヒット・ボーイではなく、ヒット・ガールがヒロインのだ。

 こうした映画を見ながら育てば、今後、女性も強くなるだろう。
ところで気になるのは、ヒット・ガールが心酔するのは、父親であって母親ではない。
女の子がスーパー・ウーマンに憧れても、女性はそのモデルになれないのだ。
つまり、女の子のなりたい姿が、男性によって演じられていることだ。
これは女性にとって、ゆゆしき問題だろう。

 大人になったときの理想像が、男女同じになっていくのは良い。
しかし、理想像を体現できるのが男性だけだとしたら、女性とはいったい何なのか。
女性の文化とは何なのだろう。
女性が担っているのは、母親役だけだとしたら、女の子はそんなものに憧れることはない。
女性の体現する文化は、子供たちに憧れを持たれるものだろうか。

 アメリカン・コミックといって馬鹿にすることはできない。
子供が憧れる姿を、マンガは正直に現しているから売れるのだ。
そうしたなかで、人格が形成されていくのだから、決してマンガを馬鹿にしてはいけない。
草食系男子は良いとして、肉食系女子の理想像は何で、誰によってモデルを示されるのだろうか。
女性達は子供に伝えるべき、カッコイイ女性像を考えるべきだろう。
原題は「KICK-ASS」、 2010年アメリカ映画
(2010.12.28)

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