タクミシネマ         スパイダーマン

スパイダー マン     サム・ライミ監督

 アメリカでは誰でもが知っている有名な漫画の映画化である。
品種改良した蜘蛛にかまれたピーター(トビー・マグワイヤー)が、蜘蛛男に大変身して活躍する。
彼は自分の手首から蜘蛛の糸を発射して、それを頼りに空中を遊歩していく。
特殊な能力を身につけた彼は、凶悪犯たちをやっつけて大活躍だが、いかんせん個人の能力では解決も限られている。
やがて、悪の超人ゴブリン(ウィリム・デフォー)が登場し、正義対悪の一騎打ちとなる。

スパイダーマン(2枚組) [DVD]
公式サイトから

 ピーターが心を寄せるMJ(キルスティン・ダンスト)は、6歳の時からの隣の女の子。
しかし、彼女は彼には見向きもせず、かっこいい男の子にぞっこんである。
友達のいないピーターは、同じ環境のハリー(ジェームズ・フランコ)と仲良くなるが、MJはハリーのガールフレンドなってしまう。
しかし、ゴブリンは二重人格で、ハリーの父親ノーマン・オズボーンでもあった。
スパイダーマンがピーターとは知らずに、スパイダーマンに心を寄せるMJだが、抗争に巻き込まれるうちに、徐々にピーターに心を寄せる。

 物語は実に大味で、脚本が漫画を下敷きにしているせいか、心理描写といったものはまったくでない。
MJの心変わりも、理由がよくわからないままに進んでいく。
ただただ話が、偶然に満ちた活劇的に進むだけである。
しかも、大衆うけする漫画ということもあって、きわめて男性中心の話である。
隣の女の子に心を寄せる気の弱い主人公が、変身して彼女にふりむかれる。
しかし、スーパーマンとなった彼には、もはや彼女を恋人にはできないといった、妙な正義漢ぶりである。


 SFXなどの特殊撮影を除けば、作品としてみるべきものはまったくないが、人物設定には考えさせられる。
MJが三人の男性を遍歴するが、まず高校生の時は肉体的にかっこいい男の子が、ボーイフレンドである。
この時には、さえないピーターには見向きもしない。
つぎに大金持ちのハリー。
そして、スパイダーマンをへてピーターへとつながってくる。
その間、彼女は女優になりたいという希望には燃えているが、対男性では常に受け身であり、しかも言い寄られた男性を選ぶ立場である。

 ピーターがスパイダーマンだとは知らないでMJは告白するが、スパイダーマンのピーターには、距離を取られてしまう。
こうしたMJのような位置のとりかたは、大昔の女性のものだ。
女性が自立して、男性と対等な関係を結ぶのではなく、言い寄られ、守られ、そのなかから選択していく。
まるでお姫様のようで、これでは女性の魅力が何もない。


 貧弱な人間観は、漫画だからといって、見過ごすことはできない。
この作品の女性観は、いわば常識としてのものであり、常識というやつが今まで女性たちを苦しめてきたのだ。
強い男性に、弱い女性という構図は、もはや説得力がない。
21世紀の女性は、ピストルも撃てば、犯罪も犯すのだ。
決して弱いだけが女性ではない。

 古い漫画と違うのは、ヒーローを肯定していないことだ。
個人的なヒーローは、もはや嫉妬や疑念の対象であり、正義の実践も素直には受け入れられない。
新聞社の編集長は、スパイダーマンはやらせでないかという。
シニカルな現代社会の視点が、何度も強調される。
ピーターが心寄せるMJと、大勢の子供の乗ったロープウェイの、どちらかを助けるようにゴブリンから迫られる。
もちろん両者のあいだでの選択はあり得ないから、ヒーローはすでに成り立たない。

 主題といえばいえるのは、偉大な能力を持った人間は、生き方にも責任があるというのだろうか。
男の子たちには、古き良き道徳を訴えるものだが、この作品は女の子たちには、何を訴えるのだろうか。

2002年のアメリカ映画   

TAKUMI シネマ>のおすすめ映画
2009年−私の中のあなたフロスト/ニクソン
2008年−ダーク ナイトバンテージ・ポイント
2007年−告発のときそれでもボクはやってない
2006年−家族の誕生V フォー・ヴァンデッタ
2005年−シリアナ
2004年−アイ、 ロボットヴェラ・ドレイクミリオンダラー ベイビィ
2003年−オールド・ボーイ16歳の合衆国
2002年−エデンより彼方にシカゴしあわせな孤独ホワイト オランダーフォーン・ブース
      マイノリティ リポート
2001年−ゴースト ワールド少林サッカー
2000年−アメリカン サイコ鬼が来た!ガールファイトクイルズ
1999年−アメリカン ビューティ暗い日曜日ツインフォールズアイダホファイト クラブ
      マトリックスマルコヴィッチの穴
1998年−イフ オンリーイースト・ウエストザ トゥルーマン ショーハピネス
1997年−オープン ユア アイズグッド ウィル ハンティングクワトロ ディアス
      チェイシング エイミーフェイクヘンリー・フールラリー フリント
1996年−この森で、天使はバスを降りたジャックバードケージもののけ姫
1995年以前−ゲット ショーティシャインセヴントントンの夏休みミュート ウィットネス
      リーヴィング ラスヴェガス

「タクミ シネマ」のトップに戻る