タクミシネマ               インセプション

☆ インセプション  クリストファー・ノーラン監督

 インセプションとは、開始とか始めるといった意味なのだろう。
人間の潜在意識の中に入り込み、その人の自己意識を変えてしまう。
つまり、他人の夢の中に入って、その人の心の動きを読み、心の持ち方を変えてしまう。
それを人工的にやろうというのが、この映画である。
Still of Leonardo DiCaprio and Ellen Page in Inception
IMDBから

 突出した着想と、丁寧な構成、それに許せる範囲のちょっとご都合主義。
文句なしに、星を献上する。
2つにしようか迷ったが、主題がこなれておらず、展開の先が見えていた。
ちょっと厳しいが1つにした。
ダーク ナイト」に続いて、力作である。

 他人の夢に入るというだけなら、それほど奇抜なものではない。
また、他人の心をコントロールするのも、睡眠術とかマインドコントロールといって、それほど珍しくはない。
この映画がすごいのは、夢の中でまた夢を見て、その夢の中でまた夢を見るという、何重にもなった構造と、それぞれの夢では時間の進行が大きく違うという設定である。
メメント」をとった監督らしく、i意識と時間を扱って、実に秀逸である。

 ドム・コブ(レオナルド・ディカプリオ)は、夢を媒介に潜在意識に入り込み、アイディアを盗む犯罪者だった。
最愛の妻マル(マリオン・コティヤール)と夢に遊んでいるうちに、彼女が心を夢の中に残したまま、現実に帰ってきてしまった。

 夢のなかの時間は早い。
たちまち50年がたち、彼女はコブとは50歳の年齢差ができてしまった。
そのため、彼女は現実に適応できず、自殺をしてしまうが、警察は夢の話を信じない。
警察は彼が妻を殺したと決めつける。
そのため、国際指名手配犯となって、世界をさまよう身となった。

 しかし、企業スパイの世界では、彼は有能な人間として、引っ張りだこである。
今回は、他人の潜在意識に、別の考えを植え付けるインセプションを、4次の深い階層で行おうというのだ。
大学の後輩のアリアドネ(エレン・ペイジ)を引きずり込んで、悪仲間と夢の世界へとおちていく。

 犯罪に使う夢の舞台構築に、アリアドネが活躍する。
彼女に街を設計させるが、コブは彼女の構想力にきちんとした評価を与えている。
アーキテクチャーと言っていたが、日本の映画であったら、構想力といった無形の能力をきちんと評価できるだろうか。

 アリアドネが設計した夢の中で、全員が行動している。
そこへ、コブの深層心理が迷い込んでくる。
列車の登場など、その謎解きは予想が付いてはいるが、それでも充分に驚きである。
それに、夢か現実かが区別つかなくなるのを防ぐために、小さなトーテムをつくる。
あの辺もよく考えられている。
しかも、トーテムのトリックが、最後への伏線になっている。


 夢が何層にもなっている設定は、上層の夢が下層へと影響を与える。
そのため、上層で天地が逆になると、下層も天地逆になる。
上層で落下中であれば、下層では無重力になってしまう。
自由落下の最中は、下層も無重力だというわけだ。
無重力の世界でも、人間だけが浮遊し、ベッドなどの家具は床から浮遊しない。
ここは充分にご都合主義で、とても楽しめる。
また、最初は戸惑った時間差も、映画の進行とともに、馴染んできて納得してしまう。

 こうした映画は、状況設定を観客に納得させるのが、とても難しい。
最初に、物語の設定を説明しなければならず、それが退屈な解説になりがちなのだ。
しかし、この映画はみごとに観客を物語に引き込んでいる。
コブが街を折り畳んで、上下に重ねてしまうと、人は3次元を歩くことになる。

 今まで平らな道を歩いてきた2人は、何の抵抗もなく垂直な道路へと歩き続ける。
そして、上の街は下の街と平行で、歩行者が天地逆に歩いている。
これはドキッとするシーンで、なかなかに新鮮である。
しかも、このシーンが後への伏線にもなっている。

 記憶や意識、それに時間を扱う映画が、犯罪と絡むと、国際的になるのは必然である。
誰にも邪魔されない空間というのが、国際線の飛行機の中だというのも面白い。
だから、飛行機を借り切ってしまえば、ターゲットを独占できる。
ミステリーにはある設定だが、やることが大仕掛けになってきた。
2時間30分と、ちょっと長いが、充分に楽しめる。
「INCEPTION」
 2010年アメリカ映画 
(2010.07.23)


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