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飛行場で訳ありの女性が、人待ちげに椅子に座っている。 こわばった顔をして、せわしなくタバコを吸っている。 15年の刑を終えて出所したジュリエット(クリスティン・スコット・トーマス)は、妹のレア(エルザ・ジルベルスタイン)の迎えを待っていた。
出所しても行くところのないジュリエットは、レアの家に転がり込む。 殺人罪で15年収監されていたことを知る、レアの夫リュック(セルジュ・アザナヴィシウス)はいい顔をしない。 しかし、ジュリエットも少しずつ心を開き、まずレアの2人の子供たちがなつく。 そして、リュックもジュリエットを迎え入れるようになる。 2人は年のはなれた姉妹で、姉が下獄して以降、姉はいないと教育されてきた。 姉が自分の子供を殺したことが、レアのトラウマにもなっていた。 夫婦ともに健康であるにもかかわらず、彼女は子供を産むことをためらって、ベトナムから養子をとっていた。 この設定は、実に説得的である。 いまでは簡単に子供をもつわけにはいかないのだ。 苦しがる子供を救えない無力感と、苦しさから解放するために、安楽死させてしまった。 彼女は自責の念に苛まれ、裁判でも一切の弁明を拒否して、15年の刑期をつとめてくる。 その屈折した心理を、クリスティン・スコット・トーマスは見事に演じている。 クリスティン・スコット・トーマスはいるだけで、知的な存在感を漂わせる女優である。 この映画でも、深い心理的なうごきが表れている。 出所後の職業として病院の秘書になろうとするが、秘書というカラーではない。 むしろ医者以上にインテリな感じがある。 その落差が、彼女の悩みを良く表している。 レア夫婦は大学の教員であり、友人たちも教員が多い。 そんな中に入っても、ジュリエットはひときわインテリっぽい感じがする。 15年の孤独は、彼女の精神を鍛え、人間存在にひときわ敏感にさせていた。 自分が子供を殺してしまったことにも、他者がどうにも手出しできないことにも。 また、苦しむ子供に、死をもってしか助けることができなかったこと。 自分の子供を殺したことを、他人はどういおうとも、自分が許せない。 他に方法がなかったとはいえ、彼女は神に償うために、黙って収監されたのだ。 その苦悩が他人に伝わるはずがない。 ミシェル(ロラン・グレヴィル)とは分かり合えそうだが、それでも他人である。 社会福祉士が彼女の心の中に、ずかずかと入り込んでくる。 社会福祉士はまったくの好意からの発言だが、他人の心は簡単に覗けるものではない。 ありがちなパターンにはめ込まれるのがオチだ。 無神経な親切心が、ジュリエットの心の傷を、撫でていく。 厳しい孤独の現実。 日本の映画だと、喋って分かり合って、涙を流すことになる。 しかし、フランスの映画は、あくまでも個人は孤独なのだ。 そうではあっても、ゆっくりとレアの家族やその友人たちと、関係が深まっていく。 このあたりは、個人の輪郭がはっきりと残り、人間関係のできかたの違いがわかる。 日本人だってフランス人だって、人間関係の作り方はそう違わない。 違うのは、それが表現されたときだ。 無条件の一体感を良しとして、描く我が国に対して、個人の自立を前提にして描くフランスの違いである。 どちらが現実を良く映しているかと言えば、フランスであろう。 我が国の映画は、人は解り合える、かくあれとお説教しているのだ。 こうした背景も孤独の現れの表現だろう。 それにたいして、脳梗塞の後遺症で失語症になったリュックの父親とは、言葉がなくても心が通っている。 このあたりは自然な流れである。 また、認知症で施設に入っているイギリス人の母親(クレール・ジョンストン)が、ジュリエットに英語で語りかけるのも新鮮だった。 刑務所でジュリエットは、自分とだけ向き合ってきた。 人間関係を取り結んでこなかった。 出所後のやつれが、徐々に溌剌とした雰囲気になる。 メイキャップも上手い。 丁寧な映画つくりであることは、充分に認めるし、良い映画だと思う。 状況の設定、問題意識、カメラワークなど良いのだが、展開が鈍い。 姉妹が泳ぐシーンが何度もあったり、刑事に面会するシーンも多すぎる。 無駄なカットが多く、間延びしているのだ。 アメリカ映画を見なれた者には、フランス映画に特有の展開の鈍さは、どうにも感傷が薄くなってしまう。 現代的な主題で、「イングリッシュ ペイシェイント」で好演したクリスティン・スコット・トーマスが主演とすれば、感動が残りそうなものだ。 しかし、見終わった充実感が残らない。 星に値する映画だとは思うが、何となく素直に星を献呈することができない。 「IL YA LONGTEMPS QUE JE TAIME」 2008年のフランス=ドイツ映画 (2009.12.29) |
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