タクミシネマ     天使と悪魔(ダ ヴィンチ コード)

天使と悪魔      ロン・ハワード監督

 タイトルから「ダ・ヴィンチ コード」という言葉が消えてしまい、 「天使と悪魔」になった。
それでも「ダ ヴィンチ コード」シリーズの第2弾だという。
今回は舞台を、フランスのルーブル美術館から、ローマのヴァチカンに移した。
主役はラングドン(トム・ハンクス)と変わらない。

IMDBから

 長い歴史をもつヴァチカンは、いままで間違いも犯し、悪いこともたくさんやってきた。
そのため、ヴァチカンに恨みをもつ者もいた。
400年ほど前の話し、弾圧された科学者たちが、秘密結社イルミナティをつくった。
すでに消滅したと思っていたら、復活してヴァチカンへの報復を開始した。

 法王が死んでコンクラーベが始まろうとするとき、有力候補だった4人の枢機卿が誘拐され、爆弾を仕掛けたことが判る。
この爆弾は、反物質というらしく、ヴァチカン全体が吹き飛ぶという。
まず反物質がスイスの研究所から盗まれる。
その担当者だった女性ビットリア(アイェレット・ゾラー)が、反物質を追ってヴァチカンへ来る。


 ヴァチカンに仕掛けられた爆弾の発見と、枢機卿救出のため、アメリカ人のラングドンのもとへ、ヴァチカンから調査依頼が来る。
まず、ここからスゴイ話しだと驚かされる。
ヴァチカンが危機だとしても、新世界のアメリカ人に救助依頼はしないだろう。
そこはアメリカ映画だから、目をつぶるにしても、謎解きがオモチャのようだ。

 イルミナティがなぜ爆弾仕掛け、なぜ枢機卿を誘拐したか。
そして、宗教と科学の対立というが、犯人は何が目的か。
まったく説明がない。
爆破時間がせまり、枢機卿が次々に殺されていく。
ラングドンは枢機卿を救うべく、謎を解いて先回りしようとする。
その謎解きが、いかにも幼稚なのだ。
天使の彫刻がもっている矢印の方向だとか、4つの教会が十字に配置されているとか。
きわめてご都合主義である。

 ご都合主義の極めつけが、死んだ法王のカメルレンゴ、つまり侍従役だった男(ユアン・マクレガー)が犯人だったのだが、彼はヘリコプターからパラシュートで降りると、強風下なんとサン・ピエトロ広場に着地する。
いくらなんでも、それはないだろう。
上空で反物質爆弾を爆破させ、すごい強風が吹き荒れたのだから、どこかに流されるはずだ。

 4人の枢機卿を誘拐するのも、たった1人の犯行だし、いくらなんでも無理だろう。
あれだけの犯罪をやるんなら、もっと大がかりな組織が必要だ。
そして、何人も殺した誘拐犯が、ラングドンに銃口を向けながら、丸腰の人間は撃たないといって、射殺しない。
いままで何人も殺してきながら、えー!である。
主人公を殺したら、話が終わってしまうから殺さないとしても、もっと必然性のある展開にすべきだ。

 宗教と科学の対立が主題だとしても、謎解き映画なのだから、話の流れに必然性が必要である。
最後の最後になって、主人公とは関係ないところで、犯人をでっち上げている。
もし、カメルレンゴが法王になることを目的にしたのなら、彼が法王に推薦されそうになったのは偶然に負いすぎており、あれでは計画があったとは言えない。


 カメルレンゴが爆弾を抱えて、ヘリコプターで上昇して、自死したほうが自然だった。
犯人はヴァチカンの警備長官ということで、充分に話はとおるし、そのほうが良い結末だった。
そして、カメルレンゴが聖人に列せられたということにすれば、万々歳だった。
反物質を爆破させているのだから、あそこでエンディングが素直だろう。

 イタリア人の物語を、アメリカ人に謎解きさせようというのが、そもそも無理だったのだ。
その無理がたたって、主人公とは関係ないエンディングというかたちで、話の結末を付けざるをえなかった。
老練なカソリックの寝技には、純真なアメリカ人がかなうはずがない。

 ヴァチカンの装飾性豊かな儀式は絵画的であるし、秘密であるはずのコンクラーベのなかを再現したり、楽しいシーンはあるのだ。
しかし、なんともご都合主義的な展開に、途中で興ざめになってしまう。
ヴァチカンの警備をスイス人がやっているのは事実だとしても、その長がスウェーデン人(ステラン・スカルスガルド)だというのも、首をかしげたくなる。

 アメリカ人のラングドンが、イタリア人を指導しようとしたのが間違いだろう。
いくら工業生産や情報産業には疎いイタリア人でも、ローマについてはアメリカ人よりは詳しいはずだ。
ラングドンの対応は、反応が鈍い途上国の人に対するようで、イタリア人が怒らなかったのが不思議である。

 ヴァチカン警察は、フィアットやアルファではなく、ランチアを使っていたように見えたが、ランチアとタイアップしたからだろうか。
でもイタリア人は、車をあんなにピカピカには磨かないだろう。
アメリカ人のヴァチカンへの無知を晒した映画のように感じた。
原題は「Angels & Demons」
 2009年アメリカ映画

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