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2時間45分と長い映画だが、ダレた感じはない。 グイグイというほどではないが、物語が上手くできているせいだろうか、画面を注視させ続ける。 古い街を再現して、その精巧さと規模に驚かされる。 また、年齢を化けるメイキャップがすごい。
死の床にいるデイジーと、その娘キャロライン(ジュリア・オーモンド)が、デイジーの日記を読み始めるところから映画が始まる。 デイジーの人生が、徐々に明らかになっていく。 デイジーとその恋人ベンジャミンのなれそめを、映画はゆっくりと描いていく。 1918年、バトン家に赤ちゃんが生まれた。 しかし、赤ちゃんはしわくちゃで、まるで老人のようだった。 妻が産褥で死んだことも手伝って、父親のトーマス・バトン(ジェイソン・フレミング)は、18ドルの紙幣とともに赤ちゃんを捨ててしまう。 子供時代、ベンジャミン(ブラッド・ピット)は自分が他人と違うことを知る。 誰もが奇異の目でみるなか、デイジー(ケイト・ブランシェット)だけが、同じ子供として同じ目線で付き合ってくれた。 彼は成人すると船乗りになる。 世界各地をまわって、帰郷すると父親らしき人物が近づいてくる。 デイジーはニューヨークでバレリーナになっており、彼女とは少し距離ができた。 父親の死によって、大きな遺産を手にした彼は、デイジーが怪我したことからヨリがもどり、幸福な同棲生活を送る。 やがて妊娠し、キャロラインが生まれる。 終わり近くになって、主題が明かされる。 老人に向かうデイジーには、赤ん坊に向かうベンジャミンと、キャロラインの面倒を見ることはできない。 そう考えたベンジャミンは、自らデイジーのもとから離れていく。 老人の身体を持った子供と、子供の身体を持った老人という、形式と内実の相克が主題である。 1996年に「ジャック」という映画が、他の子供たちより、4倍も早く成長する子供を描いていた。 「ジャック」も内容と形式の矛盾を問う映画だったが、この映画はもっと徹底している。 そして、時代が下ったぶんだけ、よく消化されている。 この映画では、自分の子供を捨てた父親も救っているし、形式で判断しがちであることを責めてはない。 しかし、もちろん内実のほうが重要ではある。 荒くれ船長のマイク(ジャレッド・ハリス)は、奇妙な外見の男のベンジャミンに、清々しい親近感を示す。 売春婦に近づくことが許されていた時代、老人の冥土のみやげとばかりに、2人で女性を買いに行く。 いまでは許されない行為だが、これは、この時代の男たちの友情の確認だった。 外見は老人で中身は子供と、外見は子供で中身は老人の、どちらが社会的な抵抗にであうだろうか。 どちらも困難なことが多発するだろうが、日々見なれている人には、前者は自然のうちに受けいるだろう。 しかし、後者を受け入れるのは、頭の切り替え操作が必要だ。 だから、誰でも納得せざるを得ない。 しかし、身体が若者になっていけば、中身は老人なのだと、頭で理解しなければつきあえない。 子供の身体を持った老人は、不気味な存在だろう。 誕生直後は想像しやすいが、赤ん坊のかたちになって、老衰で死亡していくのは、なかなか想像できない。 この映画でも、前半は丁寧に描いていたが、若者の身体になった晩年は、かんたんにすませていた。 形式である肉体の衰えを表現するのは簡単だが、内容である精神の老化を表現するのは、至難の技である。 肉体の衰えは許容されるし、描くことができる。 しかし、肉体の老化と切りはなされた精神の老化を、われわれは表現できない。 精神だけを描くことが、映画はまだできない。 だから、この映画も晩年は、かんたんに通り過ぎていたのだ。 情報社会の映画として、精神活動が重要になったことを、この映画はよく認識している。 死の床にあるデイジーとキャロラインが、狂言回しとして何度も登場するが、それは少しも気にならない。 南部なまりの英語が、ちょっと聞きづらい。 字幕の翻訳者が、アンゼ・たかしとクレジットされていたが、ちょっと意訳に過ぎるのではないだろうか。 原題は「The Curious Case of Benjamin Button 」 2008年アメリカ映画 |
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