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小学5年生の妊娠・出産という話題を使っているが、主題は近代の管理社会批判であり、実にまっとうな映画である。 主題としても、今の社会の問題を鋭くついており、しかもその解決方向まで示唆している。 映画として改善すべき点はあるが、星を献上する。
11才の女の子が妊娠するか否かは、問う必要もないし問題ではない。 この映画が訴えるのは、子供の逸脱に対しての大人の非人間的な対応である。 大人社会は円滑であるように見えるが、さまざまな約束事があり、約束を守らないと他人から非難され排斥される。 人間を大切にするはずの約束は、近代という社会では非人間的な管理化が進んでいる。 この約束は、人間の自然な営みを無視し人間を不幸にする、というのがこの映画の主張である。 大人たちは、常識という意識を強固につくっている。 その常識は人間のためであるはずにもかかわらず、逆に人間の行動を規制して狭め、自由のない窒息しそうな社会にしている。 責任を取れといいながら、じつは責任を要求している者の責任逃れだったりする。 学校という社会は、教える教師と親たちが対立し、子供は疎外されることが多い。 春菜のクラス担任である八木(麻生久美子)は、26才の若さだという理由だけで、親たちから担任を拒否されそうになる。 教頭(塩見三省)のとりなしで、何とか担任におさまる。 親たちの八木への教師不信がわだかまっている。 教師不信という現実を無視して、セックスは男女間のコミュニケーションだと、八木は性教育を実施する。 セックス奨励授業だと、親たちは不信が再燃し、たちまち八木攻撃に走る。 性教育のみならず、八木の教育は上からの注入であり、子供たちの心をとらえない。 子供たちは反発する。 そんななか、春菜の妊娠である。 子供たちは、常識にとらわれた大人たちを頼らず、自分たちで問題を解決しようと幼い知恵を絞る。 クラス委員の吉田美香(伊藤梨沙子)が、教師の八木から離反していく様子を描き、子供対大人という構図になっていく描写が上手い。 また、大人たちに妊娠が、何度もバレそうになるのも、上手い演出である。 妊娠・出産という祝福されるべき行為が、常識が支配する状況によって否定されてしまう。 既婚者たちの妊娠だけが正しくて、未婚者の妊娠は悪なのだ。 春菜の妊娠以前に、高校生の妊娠をえがき、仲間内のカンパによる中絶へと結果させている。 そして、高校生の妊娠・中絶は、町の否定的な話題になり、女生徒を苦しめる。 このエピソードもよく効いている。 この映画が訴えるのは、11才の妊娠・出産が是か非かではない。 子供の行動を、全部的に受け止めてやる大人がいないことだ。 子供を見るのではなく、あるべき常識に子供たちを嵌めこもうとする。 親たちは教員と共に、子供を育てようする姿勢はない。 子供を預けながら、教員たちを声高に責めるだけだ。 必然的に教師は、親たちの期待する常識に、子供を嵌めこむ役となる。 教師はじめ今の学校には、生身の子供をそのまま肯定する常識はない。 小学校も受験競争に憂き身をやつし、上級学校へと子供を送り込む機関である。 子供たちが生きていく上で、さまざまに模索することには無関心なまま、規定の常識だけを押しつける。 常識から逸脱した行動には、教師・親ともまったく対処できない。 妊娠・出産は自然な行為だ。 それが既婚者ではないという理由で否定され、子供だとヒステリックに隠される。 子供の幸福を願う行動はなく、自分たちの世間体を保つ行動だけだ。 それはおかしいだろうと、この監督は主張する。 昭和天皇は15歳の女性から生まれた。 子供だってセックスをすることがありうるのだ。 子供の立場からものを見よう、そう訴える。 子供が大人の期待に反した行動をとったとき、母親は頭から叱るが、祖母は、「大変だったね」とまず労いの言葉をかける。 頭から叱るやりかたは、子供の心を閉ざすだけだ。 この映画は、それを力説する。祖母の対応こそ、心が通うものだ。 何か普通と違うことをしたときは、子供たちだってマズそうだと知っている。 大人たちに相談したいのだ。 それにもかかわらず、頭から叱られたら、相談したくてもできないではないか。 似たような話を扱った「ジュノ」とは、まったく違う日本の大人たちの対応が、くっきりと描かれていた。 出産後のシーンには問題が多い。 出産直後の赤ん坊は首がすわっておらず、子供が抱くことは無理だろう。 出産後の赤ちゃんの扱いは、もっと精確に描いて欲しかった。 後半の描き込みが嘘っぽくなっていたので、星一つにとどめる。 2008年日本映画 (2008.10.12) |
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