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今のアメリカ映画では、子供が最大の主題になっている。 そのため、子供の妊娠を描いた映画は、いつかは出てくるだろうと思っていた。 16才の高校生が妊娠する話で、時代の要求にしたがって、撮られるべくして撮られた映画である。 期待して見に行ったが、映画としては残念ながら期待はずれだった。
ゲイ映画が最初はコメディとして登場したように、子供の妊娠もコメディ映画としてつくられた。 この映画はアメリカでは大ヒットし、アカデミー賞では脚本賞をとった。 かの地では、大笑いのうちに歓迎されただろうが、我が国では事情があまりにも違い、ピンと来ないだろう。 そういった意味では、期待はずれと言うより、国情の違いといった方が良いかも知れない。 16才の高校生ジュノ(エレン・ペイジ)が、同級生のポーリー(マイケル・セラ)を相手にセックスしたところ、見事に妊娠してしまった。 スーパー困惑し、友人のリア(オリヴィア・サルビー)に相談する。 しかし、当然のことながら、友人もスーパー困惑。 彼女は一時は中絶を考えるが、途中で出産に変更する。 妊娠したことを親に言いにくいのは、アメリカも同様だが、彼女は親たちに妊娠・出産を宣言。 そして、自分には養育は無理だから、生まれたら養子に出すという。 そして、子供を捜しているカップルは、ミニコミ誌で調査済みだと知らせる。 父親マック(J.K.シモンズ)はバツイチで、ブレン(アリソン・ジャネイ)と再婚して、その間に小さな女の子が一人の家族である。 両親の対応に感心させられる。子供の妊娠は一種の失敗だろうが、2人ともジュノを叱ることはない。 むしろ、ジュノを優しくいたわり、力になるという。 これが当然の対応だろう。 困った時、失敗したときこそ、親の助力が欲しいのだ。 「赤ちゃんの値段」などでも判るように、我が国の親たちは、子供が失敗したとき激しく叱る。 そして、最後に恩着せがましく、もみ消そうとする。 しかし、こうした対応は、親への不信感を植え付けこそすれ、まったく感謝はしない。 家族とは助け合うものだ。 とすれば、叱らないで、助力を提供すべきだ。 この両親の対応は、見事という他はない。 これでジュノは、親への信頼をます。 大きなお腹をして、あいかわらずあけすけな口をきいて、彼女は高校へ通い続ける。 汚い言葉を吐きながらも、じつに堂々としている。 このまま出産して、無事に養子に出してしまえば、映画にならない。 もちろん一波乱がある。 ジュノの妊娠期間を待てずに、養子先だったマーク(ジェイソン・ベイトマン)とヴァネッサ(ジェニファー・ガーナー)夫妻が、離婚することになった。 愛情が続くことは難しいのかと、ジュノはひどいショックを受ける。 しかし、ヴァネッサさえその気なら、養子にだすとジュノはいう。 養子にだす広告は、ミニコミ誌の物々交換欄の隣である。 赤ちゃんは可愛く、妊娠は神秘的な出来事だけど、あくまで物質的な現象に過ぎない。 人間の赤ちゃんと猫の赤ちゃんには、物質として何の違いもない。 登場人物たちがもっとも大切にしているのは、人間の精神活動である。 人体が大切なのではなく、思いやる気持ちとか愛情が大切なのだ。 CMの作曲家として一山当てたマークは、まだ子供のようで、ホラー・ビデオフリークのロック音楽好きである。 高校生のジュノと話が通じてしまう。 しかし、彼は大金を稼いでいるし、離婚話を持ち出しても、ヴァネッサは責めはしない。 工業社会の価値観からすれば、高校生の妊娠も、離婚も歓迎されはしない。 時代をもっと遡れば、16才なら妊娠するのは当たり前だった。 昭和天皇の裕仁は、16才の母親から産まれた。 そして、女性が労働力だった時代には、離婚は日常茶飯事だった。 工業社会の価値観が染みついた我が国では、未成年者は妊娠していけないという価値観から逃れられない。 妊娠は悪いことではない。 ただ今の社会は子供の労働を認めないので、子供に子育てをまかせることができないだけだ。 とすれば、生まれた赤ちゃんを、誰かが引き受けるシステムを作ればいいのだが、我が国ではそう考えない。 アメリカの貧乏人たちも、我が国から見たら豊かな家に住んでいる。 結局、我が国は貧乏から抜け出せていないのだ。 だから、物質としての具体的な人間と、人間の精神作用を切り離すことができずに、物質としての人体を大切にしてしまう。 この映画が描く世界は、我が国の大人たちには、ほとんど理解できないだろう。 シガニー・ウィーバーに似た感じの、小柄エレン・ペイジが達者な演技だった。 この映画は脚本でオスカーをとったが、その脚本家ディアブロ・コディとは、これが第1作であり、それ以前はストリッパーをやっていたという。 アカデミー賞の授賞式で、どちらが金になるかと質問されて、彼女が笑っていたのが印象的だった。 2007年アメリカ映画 (2008.07.17) |
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