タクミシネマ        ワールド オブ ライズ

 ワールド オブ ライズ   リドリー・スコット監督

 CIAの工作員と、本部の局員との確執を描いたものだが、冒頭でフィクションと言いつつも、かなり事実に近いようだ。
工作員のフェリス(レオナルド・ディカプリオ)は、危険をかえりみずに現場に突っ込んでいく。
彼に指示をだす局員エド(ラッセル・クロウ)は、CIAの本部にいる。


ワールド・オブ・ライズ [DVD]
IMDBから
 イスラムのテロリストをめぐって、中近東は緊張している。
なかでもアリ・サリーム(アロン・アブトゥブール)は連続爆破事件を越しており、どこの諜報機関もやっきになって追っていた。
もちろんCIAも追っている。最初は小さな事件を追いかけるが、なかなか上手く彼に辿りつかない。

 フェリスは、ヨルダン情報局の最高責任者ハニ(マーク・ストロング)の協力を求める。
エドにも内緒で、ハニに情報を提供するが、エドの裏切りで工作は失敗してしまう。
そのあげく、ヨルダンから国外追放になってしまう。


 フェリスとエドは、アリ・サリームをおびき出すために、何も知らない建築家を、架空のテロリストにでっち上げる。
そして、CIAが爆破事件を起こしてみせる。
すると、狙いどおりにアリ・サリームが接近してくる。
しかし、建築家から真相を聞きだしたアリたちは、フェリスの恋人アイシャ(ゴルシフテ・ファラハニ)を誘拐する。

 フェリスはアイシャを救うために、みずからアリに捕らわれる。
そこで待っていたのは、アイシャではなくアリだけだった。
アリを捕らえるために、ハニに内緒でやった作戦だが、じつはハニは知っており、フェリスをアリに捉えさせたのだった。
フェリスを餌に、アリを捕まえる作戦である。

 アリのもとには、ハニのスパイが泳がせてあり、フェリスが捉えられたら、連絡するような手はずになったいた。
今がその時だった。
フェリスが厳しい拷問にあっているときに、ハニの部隊が突入してアリを逮捕する。
と同時に、フェリスを救い出す。

 CIAは、ハニに内緒で罠を仕掛けたつもりだったが、反対にハニが罠を仕掛けて、アリを逮捕したのだった。
フェリスはそのネタに使われていたというわけだ。
この映画は、近視眼的なCIAの作戦を批判している。
CIAの役人をはじめ、アメリカの侵略者たちは、すぐに成果を上げないと自分の成績に響く。

 アメリカ大統領だって、世論の反発が怖い。
そのため、どうしても短期間での成果を求めてくる。
しかし、現地で生活する人は、一生をかけてテロリストになる。
だから物事をみるスパンが長い。
ヨルダンの情報局も、アメリカの影響下にありながら、現地人のスパンで考えている。

 現場を無視した指令によって、CIAの作戦や工作は失敗ばかり。
これはイラク戦争そのものにも当てはまるだろう。
現場の侵略者は、どうしても本国のほうを向いている。
だから現場を良く知った者には勝てない。
これがこのメッセージだろう。
これはよく判る。


 この映画で気になったのは、恋愛至上主義である。
監督は先進国のイギリス人だから、フェリスには離婚をさせているし、当然のことに恋愛感情を肯定している。
恋愛とは個人的な体験だが、人間が行うものである以上、状況に支配される。

 フェリスはアイシャに一目ぼれるする。
これはどんな社会でもあるだろう。
とくに現代の先進国社会では、恋愛が成就し、結婚へと連なることを肯定している。
恋愛を妨げるもの、たとえば身分とか親といったものは、悪いものとして扱われる。
恋愛こそ美しいものだ、と見なしている。

 この映画でも、最後にはフェリスとアイシャが結ばれることを、予感させて終わる。
しかし、女性を愛したことによって、フェリスは明らかに危機に陥っている。
またアイシャだって、危険に巻き込まれる可能性がぐんと高まった。
惚れることが男女の結びつきにつながるのは、必ずしもすべての社会で正しいわけではない。

 フェリスは工作員である仕事と、アイシャへの愛情とを秤にかけて、アイシャへの愛情を選んでいる。
もちろんこの選択が正しいのだが、この正しさは先進国でだけ、成立するのではないだろうか。
女性への愛情より、部族への恭順を優先することが正しい民族もあるだろうし、愛情よりも名誉を重んじる民族もある。

 「ある愛の風景」では、家族への愛を守るために、部下を殺す上官を描いていた。
主人公がアラブのテロリストなら、家族への愛情よりアラブへの大儀を優先して、家族や恋人への愛を放棄しただろう。
恋愛という感情が、仕事を遂行する上で障害にっている。

 ここでいう仕事とは、国家権力をめぐるものだ。
国家間の闘争では、個人的な恋愛感情を挟むことが、必ずしも正しいことではない。
しかし、エドが子供の世話をしながら、殺人の指令を出していたように、生活と国家闘争とは並行的なのである。

 この映画では、フェリスが簡単にアイシャになびいてしまう。
この簡単さは、おそらく人を愛することの不条理さを意味して、描いていたのではないだろうか。
国家や人種を越えた恋愛もありだし、とにかく人を愛することは、素晴らしいことだ言われる。
しかし、恋愛感情の実現を、そんなに簡単に肯定して良いのだろうか。 

 CIAのテロ対策を批判しながら、じつは恋愛から始まる家族の誕生に、じょじょに懐疑的になってきているのではないだろうか。
フェリスが簡単にアイシャに惚れるのと、エドの日常のなかでの殺人指令をだすのは、同じことの両面であろう。

 邦題は、「World of lies」だが、原題は「Body of lies」である。なぜ、変更したのだろうか。
 2008年アメリカ映画
(2008.12.23)

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