タクミシネマ        ブラインドネス

 ブラインドネス     フェルナンド・メイレレス監督

 日本人の男性(伊勢谷友介)が車を運転していると、交差点のなかで突然に目が見えなくなる。
怪しげな男が、彼の車を運転して自宅まで連れてきてくれる。
それから、彼を診断した目医者(マーク・ラファロ)、日本人男性の妻(木村佳乃)など、つぎつぎに感染して目が見えなくなっていく。


ブラインドネス [DVD]
IMDBから
 政府は素早い対策を取る。
それは彼(女)らを、強制収容することだった。
元精神病院だった建物に、多くの人が収容されるが、政府は収容すること以外に、何も手を打たなかった。
そのため、収容所内では弱肉強食状態になり、食料の奪い合いが始まる。

 男性だけが入っている第三室は強力で、リーダー(ガエル・ガルシア・ベルナル)が強権で収容所を制圧する。
食料と金目のものと交換が始まる、1週間くらいたつと、女性の身体と食料の交換だと言ってくる。
しかたなしに男たちに身体をひらく女性。その見返りに食料が配分される。

 ここまで何日くらい経っているのだろうか。
収容所内には多くの死者がでて、庭に埋葬されている。
警備員に射殺された男をのぞいて、なぜ死ぬのかよく判らないのだが、とにかく死んでいく。
しかも、収容所内は荒れ果てて、人々はすさんでいく。
しかし、その中で目医者の妻(ジュリアン・ムーア)だけが、目が見えるのだ。

 とうとう切れた女性が、第三室に火を付ける。
そのため、収容所は火事になり、みな逃げだそうとする。
不思議なことに、いままでは鍵のかかっていた扉が開いた。
外に出てみれば、全員が失明しており、荒涼とした風景が広がっていた。
そんななか、収容所で知り合った7人が、目医者の家に逃れる。
すると、また突然に目が見えるようになって、映画は終わる。

 判らないことが多すぎる映画である。
収容されたのは判るが、その後、食料の差し入れ以外に、何の手も打たない政府。外部との連絡ができない収容所。
いつのまにか解錠されている扉。外部も失明者ばかりでありながら、どうやって食料が差し入れられていたのか。
ジュリアン・ムーアだけが感染しない理由の説明がない。

 一体何を言いたかったのか、もっとも判らないのが主題である。
目が見えなくなって収容されたら、弱肉強食の世界が現出することを描いたのではないだろう。
そんな単純な主題は、もはや描かれることはない。
目の見えることの有りがたさ? ってこともないだろう。何なのだろうか。

 ところで最近、地球の異変を、人体の異変として描く映画が、増えているような気がする。
この映画をはじめ、「アイ・アム・レジェンド」や「ハプニング」とつづき、今度公開される「地球の静止する日」など、人体に異変が起きるといった設定が、増えているのではないか。


 今までの映画は、人間対侵入者(=宇宙人)という形だった。
宇宙人対人間という設定のなかで、地球の問題を考えるものが多かった。
しかし、前述した映画のように、人間自身に変化が起きるというのは、一体何がそうさせているのだろうか。
それは環境悪化への恐れが、こうした映画を撮らせるのかもしれない。

 確たることは言えないが、宇宙対地球という設定から、人間という生き物を自己相対化するようになったのかも知れない。
今までは国家単位でものを考えていたので、国家の上位概念としての地球を、自己として相対化できなかった。
しかし、経済のグローバル化により、国家概念が希薄化し、地球レベルで自己という認識が成立し始めたのだろうか。

 エコとか、地球に優しくといった言葉は、人間であることに無自覚で、人間を自己相対的に見ているのではない。
あくまで現在の人間存在を前提にした上で、環境問題を怪しげに考えている。
しかし、最近のアメリカ映画は、人間存在そのものが地球にとって有害である、と認識し始めたのではないだろうか。

 人間という種を自己相対化してみると、人間以外の高等動物も想定できるだろう。
これらの映画は、人間が肉体的に崩壊し始めていると考えることによって、地球レベルで人間を相対的に見る地平を獲得しようとしているように感じる。
近代にはいるとき、抽象的な人間とみなされたのは、白人男性だけだった。

 近代とは国民国家の時代であったわけだから、人間それ自体が国家の枠で考えられていた。
人権だって国家権力との関係で問題にされたに過ぎない。
しかし、人体を問題にすると、国家という抽象性を越えることができる。
そのため、最近の映画は人間の身体にこだわり始めたのだろうか。
 2008年カナダ、ブラジル、日本映画
(2008.12.10)

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