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何と言うことはない銀行強盗の映画だが、ロンドンで1971年に、実際に起きた事件を描いているとなると、ちょっと驚く。 いやそうとうに驚く。 こんな映画を撮り、それを許すイギリス人は大人である。
そのままベッドへ数人でなだれこみ、彼女は楽しい時間を堪能していた。 ところが、マーガレット王女たちの乱交シーンを、カメラに撮っている男がいた。 後日その写真が、イギリス政府の喉にささった小骨になる。 これが伏線である。 モロッコからイギリスに戻ろうとしたマルティーヌ(サフロン・バロウズ)は、飛行場で麻薬の持ち込みがばれる。 MI−5のティム(リチャード・ランターン)に泣きついて、刑務所行きを免れる。 しかし、交換条件があった。 それがマーガレット王女の写真を、奪って来るというものだった。 写真は銀行の貸金庫にあるから、銀行から盗んでこいと言うのが条件だった。 もちろんMI−5は知らないし、失敗してもいっさい関知しないと言う。 マルティーヌは昔の恋人テリー(ジェイソン・ステイサム)に話を持っていく。 半信半疑だったテリーだが、金に困っていたこともあり、話に乗ることになる。 映画はその過程を、丁寧に描いていく。 穴掘りの専門家や、店を借りる役とか人選をすすめ、金曜の夜から作業を始める。 テリーがマルティーヌを完全に信じていないことから、画面には不安感が漂っている。 それでいながらテリーとマルティーヌとは、肉体関係へとすすみそう気配である。 これが上手い。 互いに信じられないながら、つながる関係というのが、とても上手い演出である。 こうした関係は、「ラスト・コーション」でも見られたが、不信の肉体関係が映画の底辺に忍ばせてあり、物語に微妙なニュアンスを与えていた。 我が国では、セックスが相思相愛の関係でしか行われないと考えているから、不信の肉体関係などというのは想像がつかないだろう。 しかし、人間の心理が屈折しているのは、肉体との関係でもあり得る話である。 セックスに必要なのは体力であって、愛情ではないとこの映画は判っている。 トンネルを掘るのだから、ひどく時間がかかる。 そのシーンがねっちりと描かれる。 掘っている現場にチキンの出前をとったり、とユーモアーも交えながら、観客にハラハラドキドキを堪能させる。 ここまでは物語がゆっくりと進んでいくが、それでも鈍いとは感じさせない。 充分に楽しめる。 MI−5の幹部が娼館にかよっており、娼館からの上がりを悪徳警官がかすめていた。 賄賂を記録していたノートが、同じ銀行の貸金庫に入っていた。 そこでテリーたちは、悪徳警官からも追われることになる。 おまけに娼館でのお遊びが、写真に撮られており、その醜態写真も同じ銀行の貸金庫に入っていた。 ここで追う相手がまた増えた。 結局、マーガレット王女の写真、賄賂のリスト、政治家の醜態写真と、3つの話がからんでくる。 それを終盤でまとめあげ、一気に見せていく。 この手法は見事である。 途中までのややゆっくりしたシーンから、終盤は短いカットをつないで、畳みかけるように描いていく。 実話では盗みが成功したらしいから、主人公たちが殺されることはないと、安心してみていられる。 しかし、MI−5は超法規的な存在かもしれないし、事実、仲間の2人は殺されている。 そして、最後には海外へと逃げて映画は終わる。 テリーは、奥さんに銀行へ入ったことよりも、マルティーヌと浮気したほうが責められる。 ことの重要性が転倒していることの可笑しさである。 王室のメンバーが乱交しているという話題が、古い事件といい映画化されても、イギリス王室は何も言わない。 苦々しく思っているだろうが、実に大人の対応である。 我が国の皇室が、こんなスキャンダルを映画化されたと考えると、まったく違った対応だろう。 この映画は主題といったものはない。 ただ事実をもとに、娯楽映画を作っただけだ。にもかかわらず、面白く見ることができる。 主題云々の当サイトとしては困ったことだが、丁寧でリズミカルな映画製作に星を献上する。 2008年イギリス映画 (2008.11.28) |
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