タクミシネマ       ハード キャンディ

 ハード キャンディ    デビッド・スレイド監督

 日本のオヤジ狩りにヒントをえた、と前宣伝はいうが、内容はまるで関係なかった。
子供と大人が同じになっていく現代を、
大人の目で子供のほうからみた映画で、小児性愛を厳しく否定する、典型的なアメリカ的状況を描いたものだ。
若い監督だと思うが、注目すべきだろう。

ハードキャンディ [DVD]
公式サイトから

 写真家のジェフ(パトリック・ウィルソン)は、ネットで知り合った女の子と、喫茶店でデートした。
彼は32歳。相手の女の子ヘイリー(エレン・ペイジ)は、やっと初潮がきた14歳である。
この組み合わせが、まず変だ。
未成年者との付き合いには、慎重のうえにも慎重が要求される現代アメリカ。
たとえ本人が同意していても、未成年者と親密な仲になるのは犯罪である。

 それを知っていながら、ジェフは彼女と2人だけで会う。
相手は14歳の女の子、大丈夫だと高をくくっていた。
ヘイリーを自宅につれてきた彼は、自分の写真を見せながら、さりげなく彼女と話をすすめる。
パステル・カラーの室内に住むジェフは、清潔そうで、好感の持てる大人である。
汚らわしい小児性愛者には見えない。


 ヘイリーは気を利かして、飲み物をつくってくれる。
しかし、そのなかには睡眠薬が入っていた。
彼は目が覚めてみると、椅子に縛りつけられていた。
それから、アンをどうしたと、延々と詰問が始まる。
一度は解放されそうになるが、再び眠らされてしまい、気がつけば下半身を露出して、テーブルのうえに縛られている。 

 ヘイリーの友人だったアンは、小児性愛者たちに、玩具にされて殺された。
彼女はその報復にやってきたのだ。
ジェフは写真を撮って、そばで見ていただけで、殺してはいない。
しかし、彼女は許さない。
主犯だった男は、彼女がすでに殺しており、これが最後の復讐である。
まず、彼女は睾丸を切り取る。
そして、罪を償うべく、彼を自殺に追い込む。

 睾丸を抜く過程がぎりぎりと、画面に展開される。
その場面はけっして見せないが、直接見せるより、はるかに真に迫ってくる。
もちろん、彼は小児性愛者であることを否定する。
しかし、身動きできな状態で、睾丸に刃物をたてられて、たまらなく自白する。
そこまで追い込む過程が、実に上手い。

 14歳の子供が、きわめて優秀なのだ。
コンピューターに関しても、ジェフよりはるかに上。
充分な医学知識をもち、大人以上に賢くたちまわる。
32歳の男性が完全に振りまわされ、睾丸を切らないでくれと、彼は泣いて懇願する。
しかし、彼女は淡々と切断する。
彼はてっきり睾丸を失ったと思う。
そのうえ最後は、もっと恐ろしい展開へとすすんでいく。

 切断したと思わせて、実は切断していない。
ヘイリーはジェフの元彼女を呼びだし、彼が小児性愛者であることバラすという。
いま彼女が自宅に到着した。
アメリカで小児性愛者であるとバラされたら、ほぼ全人格が否定される。
良き社会人でありたい彼は、ヘイリーに因果を含められて、みずから自殺する。
一仕事終えたヘイリーは、さわやかな顔をして帰途につく。


 主な登場人物は、2人だけ。
わずかだがセリフのある登場人物は、あと3人。
これだけで1時間40分の映画をもたせている。
典型的なアメリカン・サスペンスであり、途中やや緊張感のかける場面もあるが、たいした演出力であり、たいした演技力である。

 子供が大人と同じように、賢くなっている。
コンピューターを扱わせたら、大人以上である。
また大人の男性が自立できず、子供を性的対象としてみる。
昭和天皇は15歳の母親から生まれているから、昔なら14歳の少女でもセックスをしただろう。
しかし、今では絶対禁止である。
最近では着衣の父親が小さな娘を、膝のうえに抱くことも、男性器が女の子に触れるので、禁止されそうである。

 性的な問題は、少女だけが対象ではない。
少年も性的被害者として、しばしば取り上げられる。
ようは未成年者を、大人とは違う生き物として、保護し隔離したいのだ。
女性が保護の対象ではなくなった現在、それに替わるのが子供というわけだ。
とにかく子供を性的な目で見ることは、絶対的に禁止である。
しかし、子供と思われている子供は、じつは大人以上の知恵がある。

 この映画は、そうした子供保護と差別の狭間を、恐ろしいタッチで描いていく。
「ホームアローン」や「ペイ フォワード」など、以前から賢い子供といったテーマは、主題に上っていた。
しかし、子供が賢いだけのそうした映画は、まだ余裕をもって見ることができた。
この映画の恐ろしさは、子供が正義を実現しようとすることだ。

 大人の世界では、リンチを肯定する流れは、「シリアル・ママ」や「セヴン」あたりから続いているが、
いよいよ子供が正義の遂行者になってきた。
女性の自立から、子供の自立へと続けば、
子供が正義の遂行者になるのは、きわめて自然な流れである。
16歳の合衆国」などを考えあわせると、子供映画の先鋭化はますます進んでいくだろう。

 それにしても、子供は大人にわかるように表現しないから、
子供たち自身がどう感じているかは、いかんせん全然わからない。
そこが女性映画とは違うところだが、女性映画も最初のうちは、男性監督が撮っていたのだから、
そのうち子供自身が表現するようになるかも知れない。
しばらく子供映画からは、目が離せない。  
   2005年アメリカ映画
 (2006.9.01)

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