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映画というのは、何のために撮られるのだろうか。 芸術?教養?おそらく娯楽のためだろう。 本サイトは映画は娯楽として手軽で、しかも五感に訴える全身的な表現として、優れているものだと考えている。 だから映画は、まず娯楽のために撮られるべきだろう。
娯楽以外の目的のために、映画が撮られることを否定はしないが、 商業劇場で公開する以上、娯楽であることを忘れてしまっては困る。 そう考えるとき、この映画は何のために撮られてのだろう、そう考えざるを得なかった。 前売り券を無料でもらったにもかかわらず、敢えて批判せざるを得ない。 高度経済成長に入る少し前、宇都宮に飯塚(滝田栄)という税理士がいた。 ドイツ語の達者な彼はやり手で、東京にも事務所をかまえ、 総勢40人以上の所員を抱えて、600軒の顧客をもっていた。 その彼は、別段賞与という制度を考えだし、中小企業の節税に貢献していた。 しかし、国税局は別段賞与を脱税だと見なして、規制をかけてきた。 役人が右と言っているものに反対するのは、現在でも困難だが、当時は非常に難しかった。 正悪ではない。 役人のメンツだけで、市井の人の意志を無視しようとした。 飯塚さんの事務所への弾圧が始まった。 まさに政策捜査であり、ライブドア事件などが射程に入っているのかと思ったが、それとはまったく関係がないようだ。 この映画が描くのは、彼がいかにして、その弾圧と戦ったか、というものだ。 たしかに弾圧は凄まじく、顧客の切り崩しが税務署によってなされ、 事務所を兵糧責めにし始めた。 所員に逮捕者がでて、経済的に困窮を極めた。 そこで彼が苦悩したのはよく判る。 しかし、この映画は一体、何を言いたかったのだろうか。 同じ原作者の「金融腐蝕列島:呪縛」という映画があった。 銀行の危機を主題にしたこの映画は、組織の論理のようなものを描いていたが、 「不撓不屈」は飯塚さんの伝記映画と言ったらいいのだろうか。 それにしては、描かれた時間が短すぎる。 おそらく彼のつくったTKCという組織の宣伝映画だったように思う。 この映画は、共産党や創価学会などの動員映画をおもわせ、 こうした映画のつくりかたは歓迎すべきものではない。 正義を正義として描くのは、表現としては実に初歩的であり、観客はあまり賛同できないのだ。 この映画については、主題を云々する次元まで、到達していないように感じる。 そうはいっても、感心した部分はある。 舞台となったのは遠い昔ではないが、すでに50年近くもたっている。 当時の時代風景も、すっかり散逸し消え失せてしまった。 すべてをセットで組むほどの予算はなかったようだ。 少ない予算のなかで、よくこれだけロケハンをしてきた。 当時の風景がしのばれるシーンが何度も登場した。 最初のうち4つ目の角形セドリックが登場していたが、 時代が下るとなで肩のセドリックに変わっていたのも良いし、 やや古いボンネットバスも登場していた。 この時代には、すでに営業車が緑ナンバーになっていたのか。 事務所のセットにしても、気を使っていたことがわかる。 しかし、撮影には問題が多かった。 とりわけライティングには問題が多い。 病院で飯塚夫妻が待つシーンがあったが、 2人がならんで座ってアップになると、黒い背広の下半分がつぶれてしまって、何も写っていなかった。 反対側からレフ板でちょっとおこしてやれば、シルエットがでるのだから、 黒をつぶしてはいけないだろう。 また、橋の上を歩くシーンでは、カメラが移動してくるにしたがって、 露出がアンダーになってしまい、発色が変わっていく。 カメラの向きが変わっただけで、アンダーからオーバーに変わってしまうのはおかしい。 カメラの位置が変わると、露光が変わりはするが、 それを変えないようにするのが技術だろう。 なんだか技術の低下を見せつけられたようで、ちょっと暗澹たる感じだった。 飯塚が復員してくるシーンがあったが、彼が実に立派な体格なのだ。 また妻を演じる松坂慶子も、これまたふっくらとした見事な体格だった。 戦後の食糧難に、あんなぽっちゃりした人はいなかったはずで、 モノクロに紗をかけてはいたが、ちょっとおかしすぎる。 あのシーンは不可欠ではないのだから、語りで聞かせるだけで充分であり、画面で見せなくてもいい。 演出上の問題では、2人を対面させて会話させるシーンが不自然である。 そば屋の娘と飯塚の会話のシーン、隠れたホテルでの飯塚と妻のシーン、内部通報者と飯塚との屋上でのシーンなどなど、いずれも立ち姿での会話が不自然である。 全身を撮しているせいもあって、間延びした嘘っぽいセリフが目立った。 宇都宮のある栃木県は、たしか海なし県のはずだが、しばしば海岸のシーンが登場した。 海を見ることに思い入れを込めているのだろうが、 ああ海を見ているんだと言うだけで、心象風景の描写として何も伝えない。 薔薇を撮して心象風景とするのと同じで、監督たちの独りよがりだけだ。 もっとテンポ良く、きびきびとやって欲しい。 2006年日本映画 (2006.6.18) |
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