タクミシネマ        花よりもなほ

花よりもなほ    是枝裕和監督

 久しぶりの日本映画。「誰も知らない」の監督なので、
少し期待していったのだが、残念ながら危惧したとおり、物語性がなかった。
我が国の映画をけなすのは、とても気が引けるのだが、どうも感心した出来ではない。

花よりもなほ 通常版 [DVD]
劇場パンフレットから

 前作が当たったので、潤沢な制作費を自由にできるようになったらしい。
出演陣も豪華である。
これはとても良いことだ。
ハリウッドでは、ヒット作を撮った監督は、潤沢な資金を用意して世界中から呼んでくる。
成功が飛躍の切っ掛けになるのは、とても良いことだと思う。
我が国でも同じような傾向ができたのは、歓迎すべきことだ。 

 さて、映画の内容だが、剣のほうはまったくダメ、武術ができないという青木宋左衛門(岡田准一)がいた。
彼の父親が殺されたので、父親の仇討ちをしなければならなくなった。
国元を離れて3年、江戸の貧乏長屋に住んで、仇を捜していた。
すでに相手は見つけたのだが、なぜだか果たし合いには出向かない。


 彼は非暴力主義者だから、剣での果たし合いを歓迎しないのだ、という説明が後半になって始まる。
これが主題であり、主題はわかるが、物語としては説得力がない。
非暴力主義者の敵討ち否定は、主題としては成立するだろう。
暴力で主張をとおすことは、何も解決にならないというのは、我が国では通りやすい主張である。

 この監督は優しい人だろう。
そんな感じがする。暴力での解決は、暴力の連鎖を生むだけで、何も解決しない、
と考えていることも伝わってくる。
しかし、宋左衛門が剣術に弱いから、敵討ちができないのか。
主義として敵討ちをしないのか、物語として了解不能である。
そこに説得力が生じない理由がある。

 相手は強そうだ。
腕に自身がないから、仇討ちをやめたい。
臆病風に吹かれて、仇討ちをやめたい。
しかし、武士という立場上、そんなことを公言できない。
何か真っ当な理由付けが必要で、その理由付けを探して苦労している。
武士だって愛すべき弱虫はいるだろう。
それならそれでも良い。
しかし、それにしては宗左衛門の格好が良すぎるのだ。

 非暴力主義者ということなら、それもあり得るが、それにしては彼の行動には一貫性がない。
また、若い彼が悩んだ末に、非暴力主義に至ったというのでもない。
忠臣蔵の討ち入りを、非暴力の点から批判して、宋左衛門の討ち入りに重ねるのは判るとしても、
主人公の生き方に筋がないし、
心理的な葛藤が描かれないから、物語に緊張感が生まれない。

 登場人物たちへの性格付けにも、一貫性が欠けている。
孫三郎(木村祐一)は、知恵遅れの若者として登場するが、
彼の発言が正常者になったり、知恵遅れになったりするのだ。
芸達者な役者もでているのだが、人物の性格がきちんと定まっていないので、演技を引き出しきっていない。俳優たちが地で演じてしまっている。


 この映画は、各カットは丁寧に作ってはいるのだが、
主題の煮詰めが甘いので、カットをならべただけになっている。
だから、2時間7分の映画にもかかわらず、2時間半をこえる映画のように感じさせ、終盤に至っては退屈さに襲われる。

 映画の物語には、起承転結といった、緩急が必要である。
終盤の山であるはずの番所相手の狂言も、全体と同じ調子なので、ちっとも山になっていない。
また、狂言がばれるハラハラさが、少しも伝わってこないのだ。
この狂言に至るまでに、観客の関心をぐっと引きつけておいて、ぱっと放してやらないと、このエピソードが効かない。

 予算を潤沢にとれたらしく、セットにせよ衣装にしても凝っている。
宗左衛門が住む長屋にしても、貧乏さが充分に演出されている。
丁寧なつくりである。が、全体的に見ると、時代考証に欠ける点が多い。
宗左衛門が寺子屋をひらき、子供たちに習字を教えるが、白い紙にどうどうと書かせている。
こんなことはない。

 紙は貴重品だったから、白い紙に手習いするなんてことは、ほんとうに稀だった。
ましてや、あれほどの貧乏長屋の住人が、白い紙を使えたはずがない。
現代の日本映画は、訴えたいことを描くためには、相当に予算を使って舞台をつくる。
この映画でもセットには、ずいぶんと神経を使ったことがよく判る。
しかし、時代考証を外すのが許されるのは、目的がある場合だけである。

 歴史的な事実に従っても、充分に物語は作れるのだから、きちんとした時代考証に従うべきだ。
お歯黒をしていなくなったのは、いつの頃からだろうか。
現代に適合させるために、時代劇がどんどんと換骨奪胎されていく。
俳優たちの体つきまで、武術家のようにせよとまでは言わないが、簡単に歴史的な事実を無視しても良いとはならないだろう。

 日本映画の現状からすれば、俳優の体格にかんしては不問にせざるを得ないが、
それでも貧乏なための顔や身体の汚しは、もっと上手くやって欲しいものだ。
その点では、宗左衛門の足の爪が伸びていたのは、とても良かった。
    2005年日本映画
 (2006.6.11)

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