タクミシネマ      エリ・エリ・レマ・サバクタニ

エリ・エリ・レマ・サバクタニ   青山真治監督

 「Eureka:ユリイカ」で懲りたので、見に行かなければいいものを、
性懲りもなく見に行ってしまった。
そして案の定、映画館の椅子に縛り付けられて、死にそうに退屈な時間を過ごした。
今回は、蓮見重彦さんが東京新聞の映画評で、この映画を絶賛していたので、
彼の映画眼を検証したかったこともあって、映画館に行ったのだ。

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公式サイトから

 2015年、感染者を死に至らすレミング病が流行っていた。
この病気が発症すると、感染者を自殺させてしまう。
ところが、ミズイ(浅野忠信)とアスハラ(中原昌也)の演奏する音楽を聴くと、発症が予防されるという。
富豪のミヤギ(筒井康隆)は、病に冒された孫娘ハナ(宮崎あおい)を救うべく、ミズイのもとへと向かう。

 感染者を自殺させるレミング病という設定はとても面白い。
そして、音楽がその予防になると言うのも良い。
病気での自殺か、単なる自殺か分からないし、いかにも同時代的な病気である。
しかし、この映画は、この着想から一歩も出ていない。
映画というのは、ある着想をもとに物語を展開して、その着想を観客に伝える過程で、作成者の意図を伝えるものだ。
この映画は着想だけで物語がない。


 「ユリイカ」でも同じことを感じたが、この監督は物語が作れないのだろう。
だから編集ができず、
思いつきで撮ったフィルムを、そのまま繋げているように感じる。
小説だって起承転結が要求されるように、映画だって物語の運びが必要である。
それが不要なのは近代詩くらいだろう。
物語をきちんと作らないから、冒頭でのテントのような生活と、それ以降の普通の生活が、脈絡のないまま繋がれている。

 この映画には演出がなく、すべての出演者が演技をしていなかった。
俳優に演技を付けることが、この監督には期待できない。
科白の棒読み、ぎこちない身体の動き。
優れた映画は、すべてが自然のうちに展開するものだ。
不自然さをウリにする映画もありだとは思うが、バーでの女性の扱いやハナの寝顔などを見ると、不自然さをウリにしているとは思えない。

 映画の展開を云々する前に、もっと問題なのは、
不要なカットが多いし、カットが無意味に長いことだ。
無意味に長いカットが、退屈さを倍加させている。
10秒を超えるカットは無数にあったし、
針金をバイオリンの弓でこするシーンは、おそらく1分を超えていたと思う。
長廻しには必然性が必要で、無意味なシーンをただ延々と見せられるのは、苦痛以外の何ものでもない。

 「オールド・ボーイ」が40秒の長廻しをしていたが、
あれは主人公のオ・デスが、大立ち回り演じ続けていたから凄かったのだ。
大立ち回りを40秒続けたところに必然性があり、
長廻しの醍醐味を充分に感じさせてくれた。
ところがこの映画では、アップの画面が動かないまま、何十秒も続くのだから無用としか言いようがない。
しかも、異様な大音響入りだから、観客の忍耐心が切れる。

 音楽が予防になるというが、その音楽たるや雑音である。
新たな音だということで、新規な音をもってくるのは良いが、
その音作りがきわめて陳腐なのである。
ホースを回して出る音や、こすり合わせ音など、とても新しい音とは思えない。
心地よい音をとは言わないが、音が予防になると言うなら、
音自体にもっと斬新なものを持ってこないと、説得力が弱い。


 神は何を見捨てたのだろうか。
ここでの我とは何だったのだろう。
蓮見さんは絶賛していたが、彼の映画を見る目は、まったく当てにならない。
流行の若い監督をヨイショしただけというなら、
評論家として真摯ではないし、本気だったら彼は映画を見る目がない。
彼の跋扈は、我が国の映画評論の退廃だろう。
ところで、映画観の窓口で入場券を買おうとしたら、
受付の女性からこの映画は大きな音がしますので、注意してくださいと言われた!
2005年日本映画
 (2006.2.17)

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