Eurekaとは、ギリシャ語で<発見>という意味だそうだが、3時間37分の上映時間はとにかく長すぎる。 長くなる必然性があるならともかく、2時間から2時間半には充分に納まる映画である。 やたら長いのは、内容が冗漫になるだけで、決して良いことではない。 短くする作業のうちに、主題がはっきりと浮かび上がってくるものだ。
バスジャックされたときに、乗り合わせた人間のトラウマを描いた映画だが、主題はそれだけではない。 運転手の沢井(役所広司)と、兄の田村直樹(宮崎将)と妹の田村梢(宮崎あおい)の3人だけが、生き残る。 沢井は事件後、運転手を辞める。 そして家出し、2年後に家に帰ってくる。 その間、妻の弓子(国生さゆり)は待ちぼうけで、沢井と彼女はやがて離婚する。 兄妹の方は、母親(真行寺君枝)が家出する。 父親(中村有志)が死亡。 2人には高額の保険金が入る。 これだけの設定が、まず不思議なのだ。 特殊な体験が、彼等を家族や地域といった共同体から浮き上がらせ、うちへと引きこもらせた、というのだろうか。 彼には奥さんもおり、社会人としてきちんと働いている。 何かをやり直すためとはいえ、いきなり家出するとは、まるで子供の行動である。 大人の人間はそんなことをしない。 そして、母親の家出は男をつくってと、噂のように説明しているが、それも真相は定かではない。 子供がバスジャックから生還したら、母親と子供の距離はぐっと近くなるはずで、バスを見送る冒頭の母親のシーンと結びつかない。 それに父親の自殺とも思える死に方も疑問である。 その兄妹が2年間も、子供だけで生活しており、そこへ突然に従兄弟の秋彦(斉藤陽一郎)が現れるのも変である。 そのうえ、沢井が田村家に転がり込むに至っては、いったいこの世はどうなっているのかとしか思えない。 設定のおかしさを全部無視しても、この映画はやっぱり変だ。 バスジャックから生き残った人間が、トラウマから連続殺人を犯すだろうか。 同じように殺人事件に巻き込まれた秋彦は、実に楽天的で殺人犯とは通常の距離をとる。 同じように事件に巻き込まれた沢井は、兄妹にたいして完全な保護者として登場している。 3人は同じ立場のはずである。 しかも沢井は、結核らしき病気が進行しながら、医者にもいかない。 自分が不健康では、他人に手を差しのべられないではないか。 殺人をしたら返り血を浴びているとか、警察に自首したら接見にいくとか、事件から必然的に起きる行動があるはずである。 それでは映画のディテールは無視し、映画を真実らしくする描写の欠落は無視したうえで、この映画を見てみよう。 血縁の家族はもはや人間関係を保証せず、極限状況にいた人間の共通体験が、濃い人間関係を形成すると言いたいのだ、とこの映画の主題を理解した。 犯罪者の直樹をいつまでも待つ。 つまり、子供への愛情は無条件だ、というのも理解できた。 しかし、あまりにも安直ではないか。 家族の崩壊は常識化しており、何が原因でも家族は崩壊するなんてことはない。 家族が崩壊するには、それだけの理由がある。 それにバスジャックだが、それ以前から登場人物はおかしかったとしか思えない。 バスジャックが彼等に何かを与えたとは思えないのだ。 母親は父親との葛藤がない。 親は子供との葛藤がない。 日常の人間関係が、何もなしに突然崩壊することはありえず、日常のなかに崩壊の原因は潜んでいる。 それが何かのきっかけで、表面化するに過ぎない。 そうした人間の日常性への観察眼が、決定的に不足している。 バス旅行という特殊な状況が先にあって、この物語を書き始めたように感じられてならない。 だから、沢井が田村家に転がり込むといった不自然さ、土木会社の同僚シゲオ(光石研)がしめす無条件的友情の不自然さ、といったご都合主義にならざるを得ない。 主題の転がしかたを考え直すべきだと思うが、カンヌやベルリンで受賞したので、この監督はこのままいくのだろう。 途中まで、セピア調の画面の必然性が分からなかったが、最後の海岸以降はセピアの意味が良く表れていた。 海岸の砂岩状のシーン、ママドッグのバスと、セピア調がよく効いていた。 とにかくもっと短く、と言いたい。 2000年の日本映画 |
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