タクミシネマ       ファイナル カット

ファイナル カット    オマール・ナイーム監督

 記憶を扱うと、なぜ映画が難しくなるのだろうか。
この映画も、「メメント」などと同様に難しい。
しかも、記憶を扱いたがるのは、若い監督に多い。
この映画も若い監督の作品である。

 人生のすべてが記憶できるチップを、頭のなかに埋め込み、死後それを取り出して、追悼上映会を開催して故人をしのぶ。
近未来社会には、そんな習慣ができていた。

ファイナル・カット [DVD]
公式サイトから

 人生は複雑であり、人は正しいことだけをしてきたわけではない。
多くの人は悪いこともやった。
出世した人は、人に自慢できないことをしたことも、多々あったろう。
しかし、追悼上映会は遺族のために行われるのだから、遺族たちは故人が善良な人物だったと見せたい。
アラン(ロビン・ウイリアムス)は、きれいな人生だったように編集することにかけて、出色の腕前だった。

 上映会で見せられる映像は、所詮虚構であり、人生そのものではない。
編集することによって、むしろ人生をズタズタにしてしまう。
記憶は人間の尊厳そのものであり、記憶をいじることは人間のやるべきことではない、という批判があったのは当然だった。
記憶をいじることは、神にのみ許されたことなのだ。


 アランは罪のある人間でも、自分が故人の罪を食べることによって、故人は天国に行ける。
一種の贖罪思想をもっていた。そして、それが自分の天職だと信じていた。
そんな時、チップを扱うアイテック社の弁護士バニスターの人生を上映会にかけるように、チップに記録された情報の編集を依頼される。

 バニスターは自分の子供に、性的ないたずらをしており、けっして聖人君子ではない。
彼のチップを分析することによって、アイテック社に反対できると考えたフレッチャー(ジム・カヴィーゼル)が、アランにチップを渡すように迫ってきた。
と同時に、バニスターのチップには、アランの幼児期の記憶を揺さぶる人物が写っていた。

 物語はチップ反対派の動きと、アランの幼児体験がだぶって進行する。
バニスターの記憶を編集しているうちに、自分の記憶を確かめることへと、心が動いてくる。
アランは非合法な方法で、記憶を確かめようとしたとき、実は自分にもチップが埋められていることを知る。
すると突然、彼は記憶の編集が、悪いことだと思うようになってしまう。

 他人の記憶を扱っているうちは、神の代わりができたが、自分が自分の記憶を扱うことはできない。
そこで彼は宗旨替えをして、チップの効力を無効にする入れ墨を入れる。
これは編集者には許されない行為だった。
宗旨替えをした彼は、恋人のディライラ(ミラ・ソルヴィノ)にも振られるし、フレッチャーに追われることになる。

 自分にもチップが埋められていることを、知ったアランが心変わりする場面がよくわからない。
ここを境に、物語はまったく違った展開になるのだが、なぜ変心したのか説明不足なのだ。
反大企業=反チップの運動と、アランの関係も不明だし、フレッチャーに命を狙われるのも理解に苦しむ。

 もっと言ってしまえば、チップを埋設する設定は良いとしても、それが追悼上映会に使われるだけというのが説得力に欠けるのだ。
チップを埋設すれば、もっともっと不気味なことが現出するだろう。
着想としては面白いので、物語をもっと練ってほしかった。


 ファイナル・カットとは、映画の編集権をも意味する。
死後の記憶編集と、映画の編集権をかけていると読むのは、穿ちすぎだろうか。
2004年アメリカ映画
 (2006.1.12)

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