タクミシネマ       The Big Spindle

The Big Swindle    チェ・ドンフン監督

 韓国映画なのに、英語の題名である。
大きな詐欺という意味であろうか。
複雑な物語で、伏線もよくはられ、よく練られた脚本で、映画の展開はなかなかに上手い。
韓国銀行をだまして、50億ウォンを奪うことが大詐欺なのだろうが、観客の目を欺くのは犯人のすり替えである。
ここがちょっと下手だったが、充分に楽しめる映画である。


 人物紹介をしながら、観客を物語に引き入れるは難しい。
だから、多くの映画は別の事件という形で、主人公の紹介をするが、この映画はいきなり事件にはいってく。
これは上手い導入である。
しかも、冒頭から警察とのカーチェイスで、犯人と思われる男チェ・チャンヒョク(パク・シニャン)が乗った車は、ガードレールを突き破って、崖から転落し炎上する。

 スピーディな導入で、観客は知らずのうちに、映画に引き込まれていく。
パトカーに追われていれば、犯罪であろう。
事故現場から戻って、物語が始まり、話は刑事の取り調べと続く。
今回の事件の全貌は、現場から逃走して車にはねられて、入院したオルメの尋問という形で判明していく。この展開も上手い。
主任のチャ刑事(チョン・ホジン)が独特の性格設定で、コミカルな味を上手くだしている。

 出獄してきたチェ・チャンヒョクは、投資詐欺師のキム先生(ペク・ユンシク)に、韓国銀行を騙す計画を持ちかける。
それに偽造の名人ガリソン(キム・サンホ)、女性相手の詐欺師ツバメ(パク・ウォンサン)とオルメ(イ・ムンシク)が加わって、計画は進行する。
そこへ、もう1人ソ・インギョン(ヨム・ジョンア)という女性が、訳ありで絡んでくる。


 車が炎上したことによって、犯人の1人チェ・チャンヒョクは死んだと思わせるのだが、これでは観客は騙されない。
犯人の車は、パトカーに追われて、トンネルにはいる。
トンネルから出てくると崖から転落となるのだが、死体の確認がないところから、トンネルのなかで何か工作があった、と思わせてしまうのだ。

 チャ刑事の前に、転落して死んだはずのチェ・チャンヒョクの兄、チェ・チヤンホが登場する。
彼は弟の保険金を受け取るのだが、その金を目当てにソ・インギョンがすり寄っていく。
物語もだいぶ進んでから、チェ・チャンヒョクと兄のチヤンホが1人2役で、同一人物だと知れるが、映画は時間を前後させて進んでいくので、物語の前後関係をつかむのがむずかしい。
しかも、チェ・チャンヒョクは整形手術を受けて顔を変えており、チェ・チャンヒョクとチヤンホの性格付けもまったく違う。

 今回、チェ・チャンヒョクは車で死んだように見せかけ、彼は兄になりすましたのだ。
兄のチヤンホがキム先生の詐欺にあって、4年前に自殺していたと明かされるのは、ずっと後になってである。
チェ・チャンヒョクは最初から、キム先生に殺された兄の復讐を狙っていたとは、ちょっと想像するのが難しい。
復讐が最初からの計画であったら、ご都合主義の展開だが、映画を見ている最中は不自然さを感じさせない。
これは物語の構成よりも、若い監督ゆえの画面の迫力のせいだろうか。

 5人の詐欺師たちの生態は、とてもスタイリッシュで、アメリカ映画をしのぐといっても言い。
キム先生を中心にした詐欺の場面とか、韓国銀行への侵入とか、上手い撮り方である。
しかも最後で、チャ刑事の部下であるパク刑事に、キム先生を殺させるのも上手い。
しかし、物語を支える部分は、ちょっと無理があった。
そうはいっても、娯楽映画としては充分に及第点である。

 謎解き映画作りは難しい。
判りやすい展開にすれば、謎がバレてしまうし、難しくすると理解不可能になってしまう。
兄のチヤンホが有名な作家だとは紹介されても、キム先生に騙されて自殺した人物との関連性は、ぼんやりとしか描かれない。
ここをきっちりと描いたら、たちまちばれてしまって、謎解き映画にならない。
この程度がちょうど良いのかも知れない。


 映画を作る姿勢や、技術など、現在の韓国は、すでに高度なものを持っている。
オールド・ボーイ」をはじめ、脚本がよく練られているものが多く、画面に緊張感があり、俳優の演技も熱っこい。
肉食人種的なしつこさを画面から感じるのも、韓国映画のレベルがあがっている証拠だろう。
ロック・ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」を思わせるB級映画で、星の対象になる種類の映画ではないが、充分に楽しめる作品である。

 一度エンドタイトルが出てから、顔の整形を戻したチェ・チャンヒョクが、宝石店で詐欺を働き、宝石を手にでてくる。
すると、車の助手席には、ソ・インギョンが乗っている。
結局2人は、いい関係になったと思わせるのも、軽いのりでよかった。
この監督は33歳と若いので、今後が楽しみである。
2004年韓国映画
(2005.12.13)

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