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ハリウッド流の娯楽映画に見えるが、意図するところは含蓄が深く、ただの娯楽映画ではない。 星を一つ献上する。 この映画を最初に企画したときと、完成した作品はずいぶんと違うのではないか、 そう思わせるプロダクション・ノートが、劇場パンフレットに書いてある。 良いほうへ変わっている。
殺人を請け負って生計を立てていた2人、ジョン(ブラッド・ピット)とジェーン(アンジェリーナ・ジョリー)が恋におちいる。 それだけなら何と言うことはなかったが、生憎と2人の組織は敵対関係にあった。 両方の組織が、互いに組織防衛のために、2人を殺そうとし始めた。 夫が妻を、妻が夫を殺せというわけだ。 まず冒頭で、ジョンもジェーンも別々の殺人をやってみせ、観客に2人の職業を簡単に紹介する。 導入の簡単なエピソードだが、ジェーンの仕事ぶりは、なかなかカッコイイ。 次の仕事は、殺しのターゲットが同じ人物だった。 そこで2人は互いに殺し合うことになった。 しかし、これは仕組まれた夫婦殺人だったのだが、この顛末は後半になって判る。 最後の最後になって種明かしがある。 話の筋が理解できなくても、ドンパチもあり、ラブシーンもあり、途中経過を充分に楽しめる。 やや老いてはいるがブラピもスタイリッシュだし、 アンジェリーナ・ジョリーは魅力的なスタイルを惜しげなく見せ、いかにもハリウッド映画のつくりである。 暗殺者にしても人を愛することはできる。 孤独な暗殺者が、異性に心を寄せるといった映画は、今までにもあった。 この映画が新しいのは、2人が敵対する組織に属することだ。 当然のことながら、彼等は自分の組織の秘密を知っているだろう。 その2人が結婚したら、秘密が秘密として保てなくなる。 つまりこの映画の主題は、企業の組織が優先するのか、夫婦愛が大切なのかという、いかにも今日的なものだ。 2人の間に秘密があったら、結婚生活はなりたたない。 とりわけアメリカでは、愛する人間は互いに助け合うものだし、秘密をもたないことが望ましいとされる。 「イン ハー シューズ」でも、女性の秘密ありげな様子が、男性に結婚をためらわせていた。 それより、秘密を云々する前に、寝物語に秘密を喋ってしまうだろう。 だから組織は、秘密がバレることが怖い。 職業が暗殺者だから、突拍子もない話のように感じるが、一般の企業でも話は変わらない。 ライバル企業の従業員同士が結婚することは、あまり考えられなかった。 ましてや女性が専業主婦であれば、この映画が描くような危険性はまったくない。 しかし、今では女性も企業人であることが多く、しかも企業買収が普通になってくると、ライバル企業の従業員同士が結婚する可能性は充分にある。 結婚した当初は、夫と妻の企業は別であっても、 合併によって同じ企業になる可能性もあるし、 反対に職場結婚しても、企業分割や売却によって別会社になる可能性もある。 先端的な企業であれば、秘密も沢山あるだろう。 従業員を守秘義務でしばっても、夫婦の間に秘密を保てるだろうか。 互いに職場の愚痴を聞いてもらうのが、今日の共働きの夫婦だろう。 とすれば、夫婦間で秘密を保つことは、きわめて難しいに違いない。 犯罪者をかくまうことだって、犯人が自分の配偶者であれば刑が減軽されるように、 夫婦は社会的な規制から距離があった。 しかし今後、夫婦の親密さと企業の建て前は、対立することが予測される。 この映画は、企業分割や売却がひんぱんに行われ、夫婦の両方が働くことが当たり前になった現在、 職業倫理と夫婦愛のどちらを優先させるべきかといった、 実に今日的な主題を扱っている。 2人の結婚生活は、5〜6年経過したと説明され、2人がカウンセリングを受ける形で映画が始まる。 そのカウンセリングの途中を切って、映画は物語へとすすむ。 最後に2人は、組織の襲撃を撃退したように思わせて、再度のカウンセリングに戻ってくる。 それと同時に映画も終わるが、これは主人公を殺せない映画だからの結末である。 彼等の属した組織は、専用のヘリコプターを使うほどに巨大であり、 組織に追われた2人は死を覚悟している。 もし生き残れたら、ブラピは北アフリカに、 アンジェリーナ・ジョリーはボリビアのラパスに逃げようと話すところで、物語の展開は終わる。 こんな大きな組織を相手に、個人が生き残れるはずがない。 だからエンディングは、ちょっと不自然なのだ。 「テルマ アンド ルイーズ」では車ごとダイビングしていく。 青春映画のターニングポイントを画する上記2本の映画は、いずれも主人公を殺している。 本当ならこの映画も、夫婦愛の限界を描いたものとして、最後は主人公を殺すべきだったろう。 おそらく途中で話が変わっていったが、監督にそこまで変える権限がなかったのだろう。 個人が結びつく夫婦と、企業という組織が対立すれば、 個人は微力であり、組織が勝つのは明らかである。 人気俳優のビラピを殺せないから、この映画の結論は中途半端になったのだろう。 しかし、家族の核である夫婦ですら、分解されざるを得ないという、新たな主題を扱っており星を付けるに値する。 俳優の人気優先で、中途半端なエンディングにしたことが、2つ付けることができなかった理由である。 ちょっと気になったのは、アンジェリーナ・ジョリーが左利きだったことだ。 ピストルの安全装置は左側にあるから、左利きの場合はピストルを扱いにくいのじゃないか。 それにしても歳をとったブラピに対して、アンジェリーナ・ジョリーの魅力全開の映画だった。 2005年アメリカ映画 (2005.12.06) 補足−現在のピストルは、安全装置が両側に付いており、右利き・左利きに関係なく使えるそうです。 ユニバーサルデザインが浸透しているので、アンジェリーナ・ジョリーへの心配は、まったく無用でした。 |
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