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古い小説の映画化だが、フランスは映画の作り方を、忘れてしまったのだろうか。 当サイトが言うまでもなく、フィクションたる映画は、起承転結とかドラマツルギーとかといった、物語のうねりを持たなければ説得力は生じない。 ただエピソードを並べても、のっぺらぼうの映画を見せられ、観客は退屈なだけで驚きも何もない。
映画とは、訴えたい主題があり、その主題を伝えるために、最初に物語の前提をしらせる。 その後、物語がどう展開していくか筋道立てて知らせていき、最後に主人公の結末を見せる。 そうした手順を踏んでいかなければ、映画にならないにもかかわらず、この映画はエピソードを並べただけだ。 何本かの原作の良いとこ取りをして、1本の映画を作っているので、主題が不鮮明になっている。 それがのっぺらぼうの映画になった理由だろう。 いまだ貴族たちが権力を持っていた時代、ルパン(ロマン・デュリス)は金持ちたちから宝石や財宝を盗む。 殺しはしないし、盗む相手は金持ちだけ。 おしゃれな盗賊だった。彼のライバルには、魔女ジョセフィーヌ(クリスティン・シコット・トーマス)がおり、警察側には何と彼の父親ボーマニャン(パスカル・グレゴリー)がいる。 この映画は、ルパン以外の登場人物が、はっきりとした性格付けをなされていない。 ジョセフィーヌやボーマニャン、それにクラリスまでが、心を変幻自在に変化させ、裏切りなどが頻発する。 裏切りの頻発はまったくかまわないが、エピソードのつながりが悪く、なめらかな説得性に欠ける。 父親ボーマニャンは、彼に盗賊の道を教えながら、死んだことになっているにもかかわらず、整形手術によって顔を変えて警察方として、ルパンに対峙するのは物語として無理がある。 1900年頃に時代設定をしていながら、整形手術が自由自在というのはおかしいし、もしそれが可能なら、彼だけにそれが出来るのも変だ。 ジョセフィーヌも100年以上を生きて、なお妖艶な美しさを保っているというが、話の展開がご都合主義に過ぎる。 変装や催眠術などでライバルをコントロールできるとすれば、話が短絡的になりおかしな結末になる。 変装や催眠術が許容されるのは限界があり、監督の都合のいいところでだけ変装や催眠術を使うのは、禁じ手のはずである。 荒唐無稽な設定はかまわないが、荒唐無稽さの中にも一貫性が必要である。 たとえば、人間が空を飛べたりしても良いが、その映画自身が設定した空を飛ぶ条件を、その映画は守らないと話にならない。 この映画は、禁じ手を無条件に使いすぎる。 フランス映画としては、破格の予算を投じているが、主題の絞り込みが出来ていないので、散漫なできあがりである。 そして、爆破シーンなどアメリカ映画を意識しているようだが、古いフランス的な部分と映画の仕上がりがちぐはぐである。 派手に血を流して人殺しをするアメリカ映画だからこそ、爆破シーンも許されるのであって、おしゃれな盗賊映画には爆破シーンはそぐわない。 監督の話を読むと、「マイノリティ リポート」を意識したとあるが、主題の持ち方自体がまったく違う。 この監督は、過去を向いて作品作りをしており、主題や表現が未来を向いていない。 古い作品を下敷きにして映画を作るのは、すでに創造力が枯渇したとしか言いようがない。 しかし、フランスには古い物が沢山あるのはよく分かる。 高そうな宝石はカルティエが提供しているが、これも歴史の長い国であればこそで、現在の金持ちであるアメリカのティファニーでは、これほどの宝石はないに違いない。 伝統で勝負するのは、古典芸能だけで良い。 映画はつねに新奇性を求め、創造力を刺激して欲しい。 フランスにはもはや創造力がないのだろうか。 お金がかかっているだけに、フランス映画の実力が判ってしまったようだ。 2004年のフランス映画 (2005.09.26) |
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