タクミシネマ       ブリジット・ジョーンズの日記−2

ブリジット・ジョーンズの日記−2 
 ビーバン・キドロン監督

 好評だった前作「ブリジット・ジョーンズの日記」の続編だが、内容はまったく違っていた。
その理由は、監督が替わったせいばかりではないだろうと思う。
主人公と相手役こそ同じだが、前作の主題は雲散霧消して、ただ結婚にあこがれる太った中年女性の物語になってしまった。

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 ロンドンに住むブリジット・ジョーンズ(レニー・ゼルヴィガー)は、未だ独身。
酒好き、煙草好き、男好きで、恋人が欲しくてたまらない。
男好き、恋人が欲しい前提は変わらないが、酒好き、煙草好きはぐっと薄まった。
彼女は自由なはずだったが、友人たちと羽目を外すこともなく、今回は自由を謳歌するシーンはない。

 上昇志向のない勤め人だが、楽しい思いもしたいといった、普通の女性の日常の悩みを描いて、前作はそれなりに共感がもてた。
しかし、今回の作品は、人権派弁護士のマーク(コリン・ファース)に逆上せ上がって、彼からの求婚を待つだけといった、およそ独立心のない女性になっていた。
マークは立派でブリジットはダメ女と描いているが、この描き方は現代女性に対して悪意すら感じる。

 弁護士のマークは、5代続きのイートン出身という家柄。
しかも高等教育をうけ、たくさんの知識もあり、スキーをやらせても上手い。
お金持ちに育った彼は、お金持ちの生き方が身に付いている。
それに対してブリジット・ジョーンズは、貧乏育ち。
ロンドンの下級階級の訛りが強い言葉を喋り、およそ教養とは無縁である。
貧乏育ちの彼女は、スキーなんていう金持ちのスポーツは触ったこともない。


 育ちのまったく違う2人が、結婚しようというのだから、話は無理に無理を重ねることになる。
体重の増えるのを気にしながらも、生活が不規則で節制できないブリジットだが、どうしたわけかマークが惚れてくれる。
しかし、本質的な改善を何もせず、上辺の見栄だけを気にする彼女のどこが良いのだろうか。

 前作の問題意識は影を潜め、彼女は専業主婦指向のおばさんにすぎない。
前作では、自立を始めた女性たちの自由と、自由の裏側に張り付いた孤独が、痛いほど伝わってきて、鋭い時代認識を感じさせたが、今回は結婚願望だけが目立った。
これではまるで1950年代の女性である。

 女性たちが社会に進出し、いまや働くのは普通のことになった。
収入のある彼女たちは、自分の思うように生活ができる。
酒を飲むのも自由、煙草をすっても良い。
どんな生活をしても、誰からも咎められることはない。
自由を満喫している。
自分が一番かわいくて、自分の好みがもっとも大切である。
そして、「l love just as you are」といわれると、天にも昇るほど嬉しい。 

 この気持ちはよく分かるが、今回の結婚願望一直線は理解できない。
彼女は素直かも知れないが、あれだけ迎合的で知性のない女性が、恋人と楽しい会話ができるとは思えない。
ただ自分の気持ちを素直に言っているのなら理解できる。
時には弁護士社会の傲岸さを皮肉って見せたりもするが、彼女は結婚したくて結婚したくて、マークの気持ちを引くために自尊心なく迎合する。

 彼の傲慢さに嫌気がさし、一度は別れはする。
しかし、結婚したさ見え見えである。
彼女のどこにマークが惚れたのか、まったく説明がないまま、ブリジットとの間だけが進行する。
自立を選んだ女性たちは苦しんでいる。
差別という保護下にあり、孤独にさらされなかった女性たちが、自分の人生を求めてもがきている。
それがこの小説の主題であるにもかかわらず、今回のブリジットにはそうした悩みは一切ない。


 タイへ出張するシーンがあるが、麻薬の密輸の嫌疑をかけられて、タイの刑務所に収監される。
このシーンを見るかぎり、ダメ女のブリジットがタイ女性を教えるという立場に立つ。
アジア人への差別意識が色濃くでている。
しかも、一度釈放された彼女の、刑務所に差し入れする本が、「Men are from mars, Woman are from venus」だときては、もう開いた口がふさがらなかった。

 レニー・ゼルヴィガーが大幅に太って、役に挑戦しているのは健気だが、主題が飛んでしまったこの映画は、見ているうちに不愉快になってきた。
ダニエル(ヒュー・グラント)との絡みも、ほとんど意味を持たず、なぜこの作品が作られたのか疑問だった。
2時間を椅子の上に座っているのが、ほんとうに苦痛だった。
2004年アメリカ映画 
(2005.03.31)

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