タクミシネマ          サイドウェイ

サイドウェイ     アレクサンダー・ペイン監督

 中年男2人マイルス(ポール・ジアマッティ)とジャック(トーマス・ヘイデン・チャーチ)が、1週間かけてサンフランシスコ近くの、ワイナリーを巡る旅をする。
この旅は、結婚を控えたジャックの、独身最後を記念して行われたものだ。
2人はまったく性格が対照的で、マイルスは内向的で思索的。
テレビタレントのジャックは肉体派で行動的だった。
この映画の主題は、「マクマレン兄弟」の後日談といったところだろうか。

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 ジャックは独身最後の日を、女性たちをナンパしまくって、楽しい思い出を作りたいと考えていた。
それに対して、マイルスは離婚の痛手から立ち直れず、しかも、書き上げた原稿を出版社に送っており、その返事待ちという不安定な状況だった。
2人は大学時代に、寮の同じ部屋で過ごした仲だから、何でもありの間柄だった。

 ワイン・ツアーの旅に出たが、ジャックは女性の物色にいそしんでいる。
心の傷を抱えたままのマイルスは、マヤ(ヴァージニア・マドセン)が秋波を送ってくるも、それに応えようとしない。
ジャックはイライラしどうしである。
そのうち、彼も素敵な女性スティファニー(サンドラ・オー)をハントする。
マヤとスティファニーは友人であることがわかり、彼らは4人でデートと洒落込む。


 ジャックとスティファニーは、たちまちベッドインで、激しく欲情におぼれる。
ジャックはスティファニーの肉体的な情熱に感激し、一時は結婚を考え直すほどの入れ込みよう。
一方、マヤはマイルスに好意を持ちながら、2人の仲はなかなか進展しない。
やっと結ばれたと思ったら、ジャックが結婚間近だということがばれてしまい、4人の仲はすべておじゃんになる。

 話の展開はだいたい想像がつくのだが、結婚をしなくなった現代人が、結婚を決断する契機といったものを、しみじみと画面に描き出している。
「マクマレン兄弟」の時代には、結婚はまだ選択肢に入っていなかったが、時代がやや保守的に流れてきたので、自分の立場を固定したい気持ちが強くなってきた。
そんな時代背景を、この映画はペーソスを交えて描き出す。

 4人の登場人物のうち、結婚を経験していなかったのは、ジャックだけである。
他の3人は、すでに離婚している。
4人のうち3人が離婚経験者とは、いかにも現代的な状況である。
しかも、最ももてるプレイボーイのジャックが、まだ結婚していなかったのだ。
この映画を見ていると、女性の地位が実にしっかりしてきたことを、今更のように感じる。

 大学教授を旦那にもっていたマヤは、旦那の偽善性に耐えきれずに、離婚している。
そして、彼女はレストランのウェイトレスをしながら、大学で園芸学の学位を取ろうとしている。
卒業後は、ワイン関係の仕事につくつもりである。
スティファニーもワインにかけてはプロであり、着実な経済的基盤をもっている。

 ジャックとスティファニー、マヤとマイルスとこの2組の中年者たちは、それぞれに自分の人生を振り返りながら、友人関係を作っていく。
ジャックが結婚間近であることを知った、スティファニーの怒りはもっともだし、怒りの表現の仕方も当然なものだ。
マヤとマイルスとは、微温的な関係であるがゆえに、決裂も決定的ではない。
最後には、マイルスはマヤのところへ戻っていく。

 マイルスは結局出版もボツになり、しがない高校の教師に戻る。
精神的な上昇志向をもった男たちの、なかなか希望がかなわない日々を、切なく描いている。
普通の人間たちの、普通の日々を暖かく描くこの映画は、「マクマレン兄弟」が描いた時代との違いを鮮明に感じさせてくれる。
両者の間には、10年近い月日が流れている。

 全員が肉体労働者だった時代、出版しようなど考えることはなかった。
マイルスは日々の仕事を越えて、自己表現をしたくてたまらない。
情報社会になって、多くの人間が知的な作業に関わるようになり、人間とは何かと考えるようになった。
昔はこんなことは考えられなかった。
健康に日々を生きることができれば、それ以上望むことはなかったし、高齢になって死ぬのは寿命だと諦めたのである。


 観念に生きる情報社会は、人間存在が浮遊しているので、自己を問わざるを得ない。
掴み所のない時代がやって生きている。
そうした時代状況を、この映画はややシニカルに、暖かくも描いている。
秀作というほどではないが、いかにも時代の子であることが感じられて、なかなか考えさせる後味だった。 
2004年アメリカ映画
(2005.03.16)

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