タクミシネマ         マシニスト

マシニスト     ブラッド・アンダーソン監督

 なんと思わせぶりな映画であろうか。
美男子のクリスチャン・ベイルを、極限状態まで痩せさせて、悲惨な姿にしてしまった。
その主題が、何んだったかと言えば、ひき逃げをした贖罪意識にさいなまれて、不眠症になった話である。
しかも、最近のサイコ映画の系譜を引いてか、すべてが幻想だったというオチが付いている。

マシニスト [DVD]
劇場パンフレットから

 トレバー(クリスチャン・ベイル)は工員である。
毎日、工場で旋盤などの機械を相手に仕事をしている。
かつては普通だったらしい身体つきも、劇ヤセした今では骨と皮だけである。
冒頭から、彼の浮き出た肋骨が強調される。
ベッドで相手をしているスティービー(ジェニファー・ジェイソン・リー)が、ふっくらしているので、彼のヤセ方が異常に目立つ。

 主人公が工員という、この設定自体が失敗だろう。
不眠症に悩むとしても、こんなに痩せさせたら、工員という職業のリアリティがなくなってしまう。
機械工なのだから、もっと身体ががっちりしていなければ、仕事ができるはずがない。
この監督は若いと思うが、若い監督の肉体労働への認識不足である。
クリスチャン・ベイルが出演した「アメリカン サイコ」は、知識労働者だったので、あの物語が成立したが、この映画は設定が無理である。

 ひき逃げをしてしまい、その贖罪意識に耐えきれず不眠症になり、幻想を見て日々を送るというのが、この映画だが、肉体労働者はこんなやっかいな神経構造を持っていない。
彼らはもっと単純で健康である。
彼の同僚たちは、いかにも工員らしかったのに、彼だけが虚弱な人間だった。
工員が「白痴」を読むのも不思議だし、あんな虚弱な神経では、肉体労働はつとまらない。
あれでは不眠症にならなくても、とっくにクビになっていただろう。

 自己の観念の妄想にさいなまれて、結局、警察に自首して映画は終わる。
このエンディングも月並みであり、設定の無理がこうした結末に帰結させている。
だいたい睡眠不足で、警察に捕まりたいというのは、サイコ映画のエンディングだろうか。
サイコ映画なら、警察も相対化して欲しい。
留置場に入るとすぐに、安心して眠りに落ちるなんて、あきれたオチだ。

 「Who are you」と自問するのは、哲学のもっとも基本だが、ひき逃げの自責の念とは関係がない。
しかも話の顛末が、途中で分かってしまうので、後は退屈で仕方なかった。
観客を集中させれば、どんな展開でも許されるのだが、謎解きが途中でばれると、集中が切れてしまう。
謎が分かっても見続けられる映画もあるが、この映画に関しては退屈だった。


 思わせぶりな色調、不思議と好意を示す女性たち、激ヤセにもかかわらず溢れる体力などなど、不自然な展開が多い。
メメント」に影響を受けたのだろうが、ずいぶんと違う印象である。
若い監督かと思ったら、すでに40歳だと知ってからは、ただもう呆れたとしか言いようがなかった。
2004年スペイン・アメリカ合作映画
(2005.02.23)

TAKUMI シネマ>のおすすめ映画
2009年−私の中のあなたフロスト/ニクソン
2008年−ダーク ナイトバンテージ・ポイント
2007年−告発のときそれでもボクはやってない
2006年−家族の誕生V フォー・ヴァンデッタ
2005年−シリアナ
2004年−アイ、 ロボットヴェラ・ドレイクミリオンダラー ベイビィ
2003年−オールド・ボーイ16歳の合衆国
2002年−エデンより彼方にシカゴしあわせな孤独ホワイト オランダーフォーン・ブース
      マイノリティ リポート
2001年−ゴースト ワールド少林サッカー
2000年−アメリカン サイコ鬼が来た!ガールファイトクイルズ
1999年−アメリカン ビューティ暗い日曜日ツインフォールズアイダホファイト クラブ
      マトリックスマルコヴィッチの穴
1998年−イフ オンリーイースト・ウエストザ トゥルーマン ショーハピネス
1997年−オープン ユア アイズグッド ウィル ハンティングクワトロ ディアス
      チェイシング エイミーフェイクヘンリー・フールラリー フリント
1996年−この森で、天使はバスを降りたジャックバードケージもののけ姫
1995年以前−ゲット ショーティシャインセヴントントンの夏休みミュート ウィットネス
      リーヴィング ラスヴェガス

「タクミ シネマ」のトップに戻る