タクミシネマ  僕の彼女を紹介します

僕の彼女を紹介します   クァク・ジェヨン監督

 前作「猟奇的な彼女」は、意外性があって面白かったが、この作品は平凡でつまらなかった。
2時間を越える映画で、途中で抜け出そうと思った。
しかし、途中退場はしない主義なので、最後まで見続けたが、とても辛い時間だった。

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 正義感あふれる暴力巡査ヨ・ギョンジン(チョン・ジヒョン)は、トンマなやつである。
女性でありながら、とんでもない力の持ち主で、あたりかまわず逮捕したがる。
新米教師コ・ミョンウ(チャン・ヒョク)を誤認逮捕するが、何と2人は恋人になると言う展開である。
この設定はありだと思うが、展開に無理がある。

 前作と同様に、女性の身勝手な振る舞いを許す男性との話だが、今回はあまりにも御都合主義に過ぎる。
映画は虚構だから、あり得ないことが起きるのは、一向に構わない。
しかし、あり得ないことと、ご都合主義は違う。
物語の展開をつなげるためだけに、話しをつくっては観客はしらけるばかりである。


 強い女性がいるのは構わないし、強い女性を愛する男性がいても、まったく問題はない。
かかあ天下は、どこにでもあるだろう。
しかし、この映画は、強い女性でありながら、男性が女性を保護しようとする。
この構造がまず落第である。
強い女性は男性を保護したいから強いのであって、男性が強い女性を保護しようとするのは、女性の強さを認めていないことだ。

 水死しそうになったコ・ミョンウを、必死に助けたヨ・ギョンジンだが、結局、彼が先に死んでしまう。
すると、彼は風になって彼女を守るという。
男性が女性より強いという、無前提の前提が暴露されてしまっている。
また死んでまでも、女性の廻りにまとわりつくのは、純愛でも何でもない。
ただのセンチメンタリズムである。

 工業社会が終わろうとする今、男女間の愛が至上という主題は古い。
我が国や韓国は、情報社会との境目にいるので、愛を至上のものとして語りたがる。
しかし、愛が世界を救えたのは、1980年代までである。
情報社会になったら、愛という観念は相対化されて、他の観念と違いがなくなる。
そのため、愛をことさらに言う内的な契機がない。

 近代に入ると、女性から職業を奪ったので、女性の自発性を否定せざるを得なかった。
自発性のない人間には、性欲の表出を認めることは出来ない。
そのため性欲に従った性愛を肯定できなくなった。
経済力のない女性は、性欲を否定されて、女性から性愛を求めることは禁止された。
ここで男性が性愛を謳歌しようとすれば、女性を物として男性の性欲のはけ口としてしまう。
人間と物という関係では、男女の関係が破綻してしまう。

 男女関係の破綻を回避するために、女性から職業を奪う見返りとして、近代社会は恋愛という愛情を持ち込んだ。
肉体的な性欲よりも、精神的な愛情のほうが、高級だという宣伝を始めた。
今でこそ恋愛は女性に歓迎されるが、近代のはじめでは恋愛は男性の主張するところだった。
男女間の愛が高く歌われたのは、あらわな性愛が肯定された前近代を否定するために、性欲を愛というオブラートでくるむ必要があったからだ。


 「しあわせな孤独」などでも判るように、情報社会化した先進国では、女性が職業人となったので、男女関係が愛だけに頼らなくても良くなった。
観念と現実の位相の違いが認識されたので、もっと現実的になったし、観念は観念として追求できるようになった。
逆説的に聞こえるかも知れないが、愛も自立したのである。
この映画のような純愛物は、我が国を含めた東アジアでしか、今や製作されない。
その意味では、韓国と我が国が、同じような産業レベルにあることを、この映画は物語っているのだろう。

 退屈で仕方ないこの映画を、我が国の映画評論は酷評しなかった。
映画は興行だから、どんな映画をも褒めるのは、理解できないわけではない。
しかし、良い映画はきっちりと高く評価し、ダメな映画は酷評するというのが、監督など映画製作者たちに対する仁義だろう。
映画の評価が、興行成績だけというのでは、評論する意味がない。
2004年韓国映画
(2005.01.12)

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