タクミシネマ  カンフー ハッスル

カンフー ハッスル   チャウ・シンチー(周星馳)監督

 映画の概念を崩されてしまいそうな映画である。
この監督は本当にカンフーが好きなのだと感じる。
前作「少林サッカー」のように、爆笑の連続というわけではない。
それでも何かずれていて、どこかおかしい。
カンフーのオンパレードで、カンフーに対する執念には頭が下がる。
前作が大ヒットしたので、今回はアメリカ資本が参加している。

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劇場パンフレットから

 前作のヒットに続く第2作は、どうしても前作の良いとこ取りをしようとする。
そのため手がちぢんでしまい、多くの場合失敗に終わることが多い。
しかし、この映画はカンフーこそ同じネタだが、まったく別種の映画と言っていい。
前作とは、違う味の作品に仕上がっている。
今回はカンフーへの監督の、のめり込みが作らせたと言っても良い。
おもしろく見ることができる。

 俳優たちのアクションと、ワイヤーカンフーの組み合わせ、そのうえにSFXを使って、空中狭しと駆け回るカンフー。
たんに痛快というのだけではない。
全体を通してややレトロで、妙な空気が流れている映画で、一種のヘタウマ映画であろうか。
もちろん映画の撮影技術や、脚本が下手だというのではない。
撮影技術や脚本は、むしろ優れていると言っていい。
一時代前の空気を、うまく脚色している。


 香港映画といえば、脚本などなしに撮られているので有名だったが、この映画は良く準備されている。
前作も脚本がよく練られており、前半の伏線が後編で良く生きていたが、この脚本も丹念に書かれたらしく充実している。
また、主演もつとめる監督は、たくさんの映画を良く見ていることが良くわかる。
他の映画からのサンプリングが、上手く挿入されている。

 「マトリックス」からのパクリだろうか、黒服の男たちが大量に登場し、彼らが空中へと放り出される。
ワイヤー技術など香港映画が「マトリックス」に影響を与えたが、今度は香港映画が「マトリックス」のアイディアを使っている。
(劇場パンフレットによれば、マトリックスの制作者が香港に帰って、この映画に参加したという。)
大量の黒服男をCGではなく、生身の人間が演技している。
それが、デジタル処理の無菌的な清潔さではなく、体臭を感じさせる映像とさせているのだろうか。

 舞台になった豚小屋砦のセットといい、斧をシンボルにした暴力団<斧頭会>といい、どこかとぼけている。
豚小屋砦とは、貧乏人たちが居住する安アパートだが、このセットがいかにもセットですという作りである。
ここを舞台に、主人公のシン(チャウ・シンチー)がアパートの住人を脅そうとするが、逆にカンフーの達人たちに反撃され、斧頭会の刺客との死闘に発展する。

 話は単純だが、通常の物語の展開とは少し違う。
アパートの住民たちは、暴力団に負けるかと思いきや、じつは住人にはカンフーの達人が3人いた。
彼らが暴力団を追い返すが、後難を恐れたアパートの大家夫婦は、カンフーの達人たちを追い出そうとする。
そこへ暴力団に雇われたカンフー使いが来て、3人を倒してしまう。
と思うと、弱々しかった大家の夫婦が実はカンフーの達人だった、という展開になる。

 登場人物の性格や役割が、コロコロと変わっていく。
通常の物語は、正義派は正義役、悪役は悪者側と固定している。
その中で裏切りがあったり、思い入れがあったりとなるのだが、この映画は役割をどんどん変えていく。
主人公のシンにしたところで、弱くてドジな男だったが、最後の最後に来て実はカンフーの達人だった、という大どんでん返しである。


 空中を飛んだり、カンフーの技に、あり得ないという場面がたくさんある。
しかし、そうした絵空事は、どんな映画でもある。
この映画の不思議さは、登場人物の役割を平気で変えてしまうことだ。
それでいながら物語はきちんと繋がっている。
安いセットのように見えながら、その実ものすごくお金のかかった映画製作という、何とも摩訶不思議な雰囲気が漂っている。

 ハイテクとロウテクの混交といおうか、ハリウッドと香港映画の混交である。
それなりにおもしろく肯定的に見た映画だが、「少林サッカー」のときのように、同じ劇場の観客席から拍手は起きなかった。
カンフーへの思い入れが強すぎて、カンフーに馴染みのない観客には、付いていけない部分が多かったのだろう。
残念ながら、星をつけるところまではいかなかった。
2004年中国・アメリカ映画 
(2005.01.12)

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