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歌え!ジャニス・ジョプリンのように
サミュエル・ベンシェトリ監督

 主人公のパブロ(セルジ・ロペス)は、保険会社に勤務している。
彼の客であるキャノン(ジャン=ルイ・トランティニャン)は、年代物のアストンマーティンを所有しているが、運転することはない。
キャノンが動かない車に、保険をかけたのを知ったパブロは、保険金が支払われることはないと考え、その掛け金を横領した。
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 何もなければ、映画は始まらない。
この車が盗難にあって大破する。
そして、修理に50万フランかかるという。
掛け金を着服していたパブロには、そんなお金はない。
さあ、その金をどうする、と映画が始まる。
そんなとき、従兄弟のレオン(クリストフ・ランベール)に、100万フランの遺産が入ったと知る。
その半分を頂こうと考えた。

 レオンは1973年に、ロンドンで会ったジャニス・ジョプリンとジョン・レノンに心酔し、2人に関係する物だけを売っている。
寂れた彼の店ストロベリーには、レオンのご自慢の商品が並んでいた。
レオンは未だに2人が生きており、いつか自分に会いに来ると信じていた。
そこで、パブロは2人に似た人間を捜して、レオンから金を巻き上げようとする。


 ジョン・レノンは俳優ワルテル・キングケイト(フランソワ・クリュゼ)をあてるが、ジャニスには何と自分の奥さんブリジット(マリー・トランティニャン)をあてる。
当初は、ノリの悪かった奥さんも、ジャニスの歌のメッセージに感化されて、いつの間にかジャニスになりきってしまう。
この手の映画の常として、事態はパブロの思惑を越えて進む。

 ジャニスの歌が日常をうち破り、ブリジットの心情に触れるのは、専業主婦の平凡さの批判として妥当だろう。
ジャニスの力強い歌い方、歌詞の内容からして、かつての若者に与えた影響と同じものを、今の専業主婦に与えたとしても、何の不思議ではない。
監督はおそらくジャニスのファンなのだろう。
ジャニスの歌は、今聞いても良い歌だと思う。

 常識を変えるのは、大変なエネルギーが必要である。
ジャニスの歌にはそのエネルギーがある。
ジャニスはグルーピーを生んだ初めての女性歌手らしい。
彼女以前の女性歌手は、どんなに有名になっても、異性関係には慎重だったらしい。
しかし、彼女は男性ロッカーと同じように、ファンの男性をとりかえひっかえにベッドに誘ったという。
彼女以前の女性歌手には、放埒な性関係が許されなかったのだが、彼女が初めてそれを破った。


 原題は「Janis & John」なのだが、実際に歌が歌われるのは、ジャニスのものだけである。
ジョン・レノンのほうは、ジャニスに比べるとずっと扱いが軽い。
ブリジットがジャニスになっていく様は、それなりに見物であり、最後に歌う「コズミック・ブルース」は見事である。
しかし、この映画はおかしさをねらったコミックだろうと思う。
その意味では少しもおかしくない。 

 主人公の思惑を越えていく展開が、おかしいと言えばおかしいのだが、ちょっと無理がある。
平凡な専業主婦のブリジットが、ジャニスにいかれるのは理解できるとしても、レオンの行動やジョン・レノンを演じるワルテルや、客のキャノンなど、無理矢理につなげている。
特に客のキャノンが、パブロを詐欺で訴えずに、彼と友達になりたいというのは、そんなことはないだろうとしか言えない。


 ストーリー展開で無理がある上、主人公の思惑を逸脱していくのが、チグハグさとなってこないのである。
間の取り方というか、笑いのありかたが、まったく洗練されていない。
フランス映画は、いまや映画の作り方を忘れてしまったとしか、思えない。
 2003年フランス・スペイン映画
(2004.08.20)

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