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人間は歳をとると、穏やかになるものなのだろうか。 若い頃には、シャープな感性にものを言わせて、「シザーハンズ」や「マーズ アタック」のような鋭角的作品を撮っていたこの監督も、46歳という年齢にもかかわらず、随分と丸くなってきた。 幻想的な創造力は今でも充分に感じるが、皮肉なところが影を潜め、やや物足りない感じもする。
釣り人なら逃がした魚の大きさを、いっそう大きく言いたいものだ。 それが「ビッグ フィッシュ」の由来で、「逃げた魚は大きい」ということだろう。 主人公は父親のエドワード・ブルーム(若い頃=ユアン・マクレガー、後年=アルバート・フィニー)だろう。 物語は息子のウィル(ビリー・クラダップ)の目を通して展開する。 子供からの父親発見という仕立てになっている。 父親のエドワードは、大ホラ吹きだったといったら嘘になる。 彼は人の心に、楽しみをもたらすような、幻想的な話が大好きだった。 そのため、真実とは思えないような話へと発展した。 しかし、嘘というには惜しい。 息子のウィルは小さな頃から、お伽話めいた作り話を、たくさん聞かされてきたので、父親の実像がつかめなくなっていた。 ウィルは真実の父親像を求めていたが、それが叶わずむしろ敵対してしまっていた。 父親の余命が、幾ばくもなくなったと知らされた今、ウィルは妊娠7ヶ月の妻ジョセフィーンをともなって、パリから故郷のアメリカへ帰る。 そこで映画は、父親の懐古話を詳細に展開する。 エドワードと奥さんサンドラ(ジェシカ・ラング)との運命的な出会い、サーカスでの日々、徴兵生活、ウィルの誕生、その後の職業生活等々、どれもどこまでが現実で、どこまでが作り話だか判らない。 末期が迫っている病身のエドワードと、昔日の若きエドワードを、交互に見せながら映画は進む。 この映画から、父親と息子の確執といった主題を拾うことも、充分に可能だが、それよりもティム・バートンが繰り広げる創造力の世界に、遊んだほうがはるかに楽しい。 コーエン兄弟とやや似た資質を感じさせるこの監督は、映画といった絵空事をなお空想で遊んでしまう。 この映画も、生まれ故郷の大男の話、靴を履かない人々の幻想の街、中国への出兵の話しなど、奇想天外ななかにも優しい心使いを感じさせる場面がたくさんある。 ゆったりとすすむ物語には、たくさんのエピソードがちりばめられている。 この映画では、どこまでが現実であるか否かを、詮索しても意味はない。 むしろすべてお話だったでも、まったくかまわない。 魔女のジェニファー(ヘレナ・ボナムカーター=ティム・バートンの今の恋人らしい)が、現実の街スペクターに住んでいると知って、ウィルは出かけていく。 そこで父親の知らない面を発見していく。 エドワードの葬式には、彼の話しに登場した人物が、大勢参集してきた。 それをみて、ウィルは父親の人となりを、何とか理解できた気になった。 アメリカ映画では、母子物というのは少ない。 ほとんどが父と息子、もしくは父と娘の物語である。 母がイメージするのは自然であり、存在そのものであるので、不作為である。 母なる概念には、自然に働きかけるという近代的な作為の思考が入りにくい。 それに対して、父親は積極的に働きかける象徴であり、近代的な存在である。 近代から始まったアメリカでは、母を語るよりも父を語る必要があった。 いまだ前近代が残る我が国では、自然から離れた父親が確立しておらず、人間が自然と一体化したがる傾向がある。 そのために父親よりも、自然に近い母親のほうが好まれる。 とりわけ戦前は母親一色だった。 父親は種付け役として、天皇1人が存在すれば充分だった。 彼我における人間関係の作り方の違いを、この映画からも感じさせられる。 メイキャップの技術が、どんどん進んでいる。 魔女を演じたヘレナ・ボナムカーターは、38歳であるにもかかわらず、本当の老女のように老けて見えた。 SFXの技術の発達もさることながら、ローテクな技術も日々進化している。 ところで、この映画は涙を誘うような類ではないと思うが、不思議なことに明るくなった劇場では、涙目をした人をかなり見受けた。 2003年アメリカ映画 (2004.06.11) |
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