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ニュー オリーンズ トライアル 
ゲイリー・フレダー監督

 我が国でも裁判員制度が、話題になっている。
この映画は陪審員になって、裁判の行方を操ろうという話だ。
種を明かせば、なーんだという話だが、結末まで興味をそらさずに見せる。
娯楽映画の定番である。


 ニューオーリンズのある会社で、銃の乱射事件が発生した。
犯人は11人を殺害して自殺した。
夫を失った妻のセレステ・ウッド(ジョアンナ・ゴーイング)が、正義漢の貧乏弁護士ローア(ダスティン・ホフマン)をやとって、銃器メーカーに巨額の損害賠償を求めた。
メーカー側は陪審員をコントロールして無罪を獲得する作戦に出た。
そこで陪審コンサルタントのフィッチ(ジーン・ハックマン)を雇う。
両者の対決やと思いきや、自分が陪審員になって法廷に潜り込んで、他の陪審員を操ろうとする訳ありの男ニック・イースター(ジョン・キューザック)が登場する。
公式サイトから

 銃器メーカーは訴訟に負ければ、今後全米で同種の訴訟が起き、莫大な損害賠償金を支払うことになる。
彼らも必死で、陪審員を巻き込んで工作する。
その作戦長がフィッチと言うわけだ。
ローアのほうは正義感が取り柄という古いタイプの弁護士で、売り込んできた陪審コンサルタントを辛うじて雇うだけ。
そこへ、 原告・被告の双方に「陪審員売ります」とメモが入る。
これで法廷を中心に、三角関係ができあがる。

 ニックの恋人であるマーリー(レイチェル・ワイズ)が、メモを送りつけたのだ。
ニックは全米中の銃裁判で、陪審員になるべく画策していた。
陪審員になることに、今回やっと成功したのだった。
2人はかつての銃乱射事件の被害者で、マーリーは姉妹をその事件で失っていた。
ニックとマーリーの説明がないので、三角関係の事件として、話は展開するかに見える。
フィッチの精力的な行動に対して、ローアのほうは実にさえない。


 この映画は、フィッチ対ニックとマーリーの戦いといったほうが良い。
形式的な裁判制度は壊さずに、陪審員を抱き込んで、内部から自分たちの都合のいいように操作する。
いかにもアメリカ的な手続きを大切にしたやり方である。
陪審員への工作はすでに「陪審員」(1996年)が描いており、アメリカでは不自然ではないのだろう。

 陪審員は選挙人名簿から無作為抽出されるが、原告・被告が陪審員を拒否できる。
候補者の中から、陪審員選びが始まる。
大勢の陪審員候補から選択していく。
誰を陪審員にするか、フィッチの勝負はここにかかっていた。
しかし、今回は陪審員のなかに、邪魔をする敵対者がいた。
法廷に立つ被告側弁護士のダーウッド・ケーブル(ブルース・デイビソン)を通じて、フィッチは次々と指令を出す。
それを攪乱するニックとマーリーが、1000万ドルで陪審員を売ると言ってくる。

 彼らがローアのほうにも売ろうとするので、話がややこしくなるが、実はこれはカムフラージュに過ぎない。
この映画は、銃社会アメリカの原罪とも言うべき、銃による犯罪多発と陪審員制度への批判だろう。
銃社会へのほうは、我が国でも良く理解されるが、陪審員制度というか裁判制度への理解は、余り語られない。
この映画も、裁判の結果が金に左右されて、正義が貫かれていないとの前提に立つ。
そういう意味では、「私刑」こそ肯定していないけれど、最後的には裁判不信と言って良いだろう。


 ダスティン・ホフマンが精彩を欠き、ジーン・ハックマンに迫力あった。
しかし、意外だったのはジョン・キューザックで、オスカー俳優を差し置いて、トップでクレジットされていた。
確かにチャーミングで器用な俳優だと思うが、「アドルフの画集」でも主演しているし、最近ちょっと出過ぎじゃないだろうか。

 この映画でも、女性の活躍は著しい。
マーリーを演じるレイチェル・ワイズは、大の男と格闘となり、男の足に重傷を負わせて、この格闘に勝利する。
今やアメリカ映画では、女性がか弱いと描かれることはない、といっても過言ではない。
小柄なレイチェル・ワイズが、本当に格闘に勝てるのか疑問だが、とにかく男女平等なのである。

 映画のできは標準的である。
12人の陪審員という大勢を対象にせざるを得ないので、群衆劇な側面があり演出は困難だったと思う。
そうした中では、三角関係を見せるのには、成功したと言ってもいいかも知れない。
主題的には見るべきものはないが、法廷の弁護士と、作戦室にいるフィッチのやりとりは、テンポ良く進んでいく。
細かい作戦が、経験からくる感と、それを支えるデータの収集によって進行する。
コダック・フィルムの美しい色彩が、印象的だった。
2003年アメリカ映画
(2004.2.13)

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