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邦題のままでは、この映画の主張がまったく判らない。 原題の「The Claim」とすると、たちまち主題もはっきりする。 なぜこんな邦題を付けたのだろうか。 トーマス・ハーディの「カスターブリッジの市長」に、原作をとったと言うが、この邦題では贖罪とか復讐といった意味は伝わってこない。
原作はもちろんイギリスが舞台だが、映画は1867年のカリフォルニア、シエラネバダ山中での話。 キングダム・カムという小さな街があった。 街に君臨するのは、ダニエル・ディロン(ピーター・ミュラン)だった。 彼はかつて金鉱探しだったが、採掘権の権利書と引き替えに、妻と子供を売ってしまった。 いまでは財をなし権勢をふるっているが、それが彼には消せない罪業だった。 ある時、鉄道を建設するための測量隊が、ダルグリッシュ(ウェス・ベントレー)を先頭に街にやってきた。 そして、彼らと一緒に一組の母エレーナ(ナターシャ・キンスキー)と娘ホープ(サラ・ポーリー)もやってきたが、この二人こそディロンが売ってしまった人物だった。 その経緯が徐々に明らかになる。 ダルグリッシュとホープが恋におち、ディロンとエレーナ、それにホープが絡んで話は進む。 ホープのために、彼女は養育費を要求する。 事実を知ったディロンは、愛人のルシア(ミラ・ジョヴォヴィッチ)と別れ、エレーナと結婚する。 しかし、ホープには真実を知らせなかった。 そんななかディロンは、自分の街に鉄道が通ると期待していたが、測量結果はそれを否定した。 エレーナが死ぬと、ホープはダルグリッシュを追って街をでる。 絶望におちたディロンは、街に火を放って自殺する。 妻子を捨てたことへの贖罪、エレーナやホープだけではなくルシアなど女性たちの復讐など、主題は理解するが、すでに古い。 だから、映画自体は特別な感興を呼ばない。 しかし、この映画が舞台にしている1867年当時の田舎町の様子が、実に興味深い。 金を求めて集まる男たち、その相手をする娼婦たち。 人口は千人そこそこだが、街としての機能をもち、ディロンが強権を握っている。 部外者が街にはいるときは、拳銃を預けさせ、自分が警察権を握る。 西部劇そのものである。 カルフォルニアは金探しで開かれた場所だが、そこでの掟というか、男たちの生き方が強烈である。 実力だけが支配する、いわばやくざの世界である。 ここでは買春が悪だとは誰も思っていない。 すこぶるつきの男尊女卑である。 映画は小さいながらも規律があり、街ができていく過程を、間近に見せてくれる。 肉体労働そのものである金探し、ここでは肉体的な劣者は無用である。 そのために、腕力の論理だけが貫徹している。 そこに鉄道という近代的な文明が入り始めると、肉体が支えた文化は、否が応でも変質を迫られる。 肉体が文化を支えた時代には、結婚は愛情とは無関係だったから、政略結婚でもわかるように妻子を売ることもあり得た。 しかし、近代的な感覚からは、金探しという欲につられたとは言え、妻や子供を売り渡すことは、どうにも言い訳ができない。 この原作者と映画監督は、明らかに近代にたいするスタンスが異なるが、時代に対する危機意識は同質である。 原作が書かれた理由は、イギリスの近代に新たな価値観が台頭し、人間性がむきだしになった危機意識からだろう。 映画監督がとりあげた理由は、情報社会への危機意識だろう。 自由に満ちていたが、無法だった西部は、現代の情報社会とよく似ているに違いない。 ただ近代の初めは、肉体から精神への転換だったが、今では精神から精神へのより一層の徹底である。 この映画でも、きわめて知的な理性が、この原作を現代に翻案したように感じる。 しかし、時代認識が先行し、話の展開が論理に過ぎ、エンターテインメント性に欠けている。 原作が完全に消化できていない感じである。 話はよく解るが、主題が時代から後ろ向きの感もする。 映画としては長く、途中で退屈になる。 やはり映画は娯楽だから、ハラハラドキドキの起承転結があって、観客を画面に釘付けにして欲しい。 それにしても、舞台は雪と氷の極寒で、俳優たちは大変だろう。 劇場パンフレットを読むと、衣装の下にはハイテク素材の下着を厚く着込んでいたとか。 50億円の制作費だったという。 2000年イギリス・カナダの合作映画 |
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